第四話の四『なのは様、砲撃す!』

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「出番て大事だと思うんだ!!」
「……は?」
 
 
 
 
突然そう叫んだ主君に対し、アリサはとても冷めた声をもらした。
ついに気でも触れたのだろうか?
 
 
 
 
「あるじゃない、これから」
「そうだけどそうじゃないの!」
「じゃあ何よ」
「私も夜会行きたかった!」
「……って、またそれ?」
「置いてくなんて酷いよ、アリサちゃんのバカー!」
 
 
 
 
ミッド中央闘技場控室、決闘の時刻が迫ったこの場所で、なのはの関心は全く別のところにあった。
つまり、置いてけぼりをくらった昨日の夜会のことだ。
もちろんなのは自身は行く気でいたし、文句の一つも言って宣戦布告をしてやろうと思っていた。
が、しかし。
蓋を開けてみればものの見事になのははお留守番だった。
なのはがいると、なんかめんどくさいことになりそうだ、と判断したアリサによるものだ。
ご丁寧に時間をずらされていた目覚まし時計を、起床したなのはが放り投げたとしても仕方が無い。
 
 
 
 
「しょうがないでしょ、あんた余計なことしそうだったし」
「うー!」
「もうすぐ時間になるわ。その苛立ち含めて一切合財、全部相手にぶつけてきなさい」
「むむむ……うん」
 
 
 
 
なのはの気持ちを考えれば連れて行きたくはあったが、目的を達成できなくては意味が無い。
こうして無事に決闘までこぎつけた以上、アリサの判断は間違ってはいなかった。
ご機嫌斜めななのはの相手をしなくてはならなくなったグリーアブル候は、少々気の毒だが……身から出た錆というものだろう。
 
 
 
 
「でもアリサちゃん、魔力リミッターつけたって一瞬で終わっちゃうと思うんだけど?」
「そうね……でもそれじゃ困るのよ」
「黒幕が釣れなきゃ意味が無い?」
「ええ」
 
 
 
 
黒幕、ナスティの側近であるディオニスの存在。
ナスティの方はこれでケリがつくが、ディオニスの方はそうはいかない。
根こそぎ膿を取り出さなければ、いつまでたっても終わることはないだろう。
 
 
 
 
「んー、じゃあ……『頑張る』ね」
「ええ『引きずり出して』ちょうだいね」
 
 
 
 
直接手を下すことは出来ない。
けれど向こうから出てきてくれるなら話は別だ。
ニッと笑い合いハイタッチを交わした二人は、十分前を告げるアラームを確認して控室を後にする。
狭い石造りの通路を抜ければ……そこはもう決戦の場所だった。
 
 
 
 
「じゃ、行ってくるねアリサちゃん」
「ええ、はやてにカッコイイとこ、見せてあげなさい」
 
 
 
 
決闘の舞台には、対戦者と立会人以外の立ち入りは許されない。
舞台の下でアリサと別れると、なのはは中央へと進み出る。
そこにはすでに、立会人ユーノ・スクライアと、対戦相手であるナスティ・グリーアブルの姿があった。
 
 
 
 
「ふん、余裕の登場だな高町なのは」
「そうかな? ウォーミングアップも必要なさそうだけど違うかな?」
 
 
 
 
早速駆け引きが始まる。
舞台の中央で相対した二人は、視線の間で火花を飛ばし……てはいなかった。
(はやてちゃんはっと……あ、いたいた)
睨みつけているナスティと対照的に、なのはの視線は愛する人へ。
貴賓席に座るはやてへと向けられていた。
(護衛にはザフィーラさんとヴィータちゃんがついてるし……大丈夫そうだね)
襲撃の可能性もなくはなかったが、それでもこの決闘にはやてが立ち会わないわけにはいかない。
告発は八神はやての意思である、と周りに知らしめるためにもその姿が必要なのだ。
なのははこちらを真剣な表情で、じっと見つめているはやてに向かって微笑んだ。
大丈夫、何もかもうまくやってみせるから、と。
……本当は思いっきり手を振ってはやてちゃーん♪……と叫びたいところだったが、
さすがに怒られるだけじゃすまなそうだったので自重した。
代わりに終わったら思いっきり抱きつこう。
 
 
 
 
「余裕ぶっていられるのも今のうちだ、試合になれば……っておい! 聞いてるのか貴様!」
「……ん、あぁ……なんだっけ? あ、そうそう、
 リミッターだけじゃ勝負にならないと思うから、バスター類もフィニッシュ以外では使わないでおいてあげるからね」
「な、ぐ……ど、どこまで人を馬鹿にすればっ……!!」
「コホン……ルールの説明を始めていいかな?」
 
 
 
 
試合の前に既に臨戦態勢に入っている二人を制して、ユーノが軽く手を上げ説明の開始を求めた。
それになのはもナスティも軽く頷くと、ユーンは一歩前へ出て手にしていた汎用デバイスを二人へと手渡した。
 
 
 
 
「試合は時間無制限の一本勝負、勝敗はどちらかの生死を問わぬ戦闘不能、もしくはギブアップによるものとします。
 使用デバイスは闘技場備え付けの汎用デバイスのみ、防御フィールドは、このバッチの魔力容量内での使用となります」
 
 
 
 
さっとルールの説明をすると、ユーノはなのはとナスティに防御フィールドのバッチをつける。
これも対戦条件を均等に近づけるための物で、このバッチの容量を超える防御フィールドを張ることは出来ない。
双方の魔力運用の実力を考慮した結果である。
そうでなくとも、なのはの堅い防御を破るのは並大抵のことではないのだから。
 
 
 
 
「……時間になりました。これより高町なのは対ナスティ・グリーアブルの決闘裁判を始めます」
 
 
 
 
諸侯達が食い入るように舞台を見つめる中、なのはとナスティがデバイスを構える。
ユーノの右手が高々と掲げられそして……振り下ろされた。
 
 
 
 
「試合……開始!!」
『Shoot Barret』
『Accel Shooter』
「いけぇっ!!」
「シュートッ!」
 
 
 
 
開始早々、同時に放った射撃魔法は舞台の中央で激突する。
一瞬立ち込めた煙を切り払うように突撃をかけてきたのは……ナスティの方だった。
 
 
 
 
「っと……」
「はぁっ!!」
 
 
 
 
ギンッ! と甲高い金属音を響かせて、デバイス同士がぶつかりあった。
遠距離魔法よりも近接戦闘の方が得意とは聞いていたが、その通りだったらしい。
デバイスを槍……というよりは薙刀のように振るい、連続してなのはへと打ちかかっていく。
元々遠距離型のなのは、しかも止め以外はバスター無しであるなら尚更接近戦の方が効果はある。
ただし、実力の差は存在する。
 
 
 
 
『Divine Shooter』
「うぉっ!?」
「打ち込みは悪くないけど、接近戦なら撃てないだろうっていうのは大間違いだよ?」
「くっ……おぉぉぉっ!!」
「ふっ!」
『Flash Move』
「はっ!」
「ちぃっ!?」
 
 
 
 
顔のすぐ真横を通過したシューターに一瞬怯むも、退くという選択肢は既に無い。
ナスティは再びデバイスを構え距離を詰めると、上段から打ち込んでいく。
対するなのはも、下方からすり上げるようにして放ったデバイスで、その打ち込みを受け止めた。
魔法戦による決闘であることから、あまり予想されていなかったデバイスでの打ち合いに、見守る観客達は驚きの色を隠せない。
どうせなのはの一撃で終わりだろう、というのが大方の予想でもあった。
試合はナスティが打ち込み続け、なのはがそれを受けながらも、シューターを混ぜる形で応戦する展開へとなっている。
意外と、やれてるんじゃないのか?
そう観客達が舞台を注視する中、一人闘技場の外円部にいた男は、つまらなそうにその光景を見ていた。
 
 
 
 
「やはり……遊ばれているな」
 
 
 
 
溜息と共にそう吐き捨てる。
ディオニスだ。
 
 
 
 
「観客への配慮、ということか……ふ、くだらん」
 
 
 
 
一見すれば、拮抗したいい勝負に見えるのかもしれないが、実際はそうではない。
例え自ら砲撃魔法を封じ、射撃魔法と接近戦だけでの戦いになったとしても、
その程度のことでなのはとナスティの実力の差は埋まらない。
見る人間が見ればすぐに分かる、あれは、遊ばれているのだ。
 
 
 
 
「が、しかし、その慢心が運の尽きだ、高町なのは」
 
 
 
 
ニィと唇の端をつり上げて笑うと、ディオニスの手が動く。
首を切るように一文字に。
 
 
 
 
「あの世で後悔するがいい」
 
 
 
 
その直後、異変が起こった。
舞台中央で、鍔迫り合いや打ち合いを続けていたなのはとナスティが、若干距離を取った次の瞬間、なのはの身体が大きく傾いだ。
胸を貫く衝撃がなのはを襲う。
音はない。
それでも一瞬息が詰まるような衝撃を、確かになのはは感じた。
続けざまにもう一発、激しい痛みがなのはの心臓を打ちつけた。
たまらず膝をつき、そのまま前のめりに……
 
 
 
 
「なのはちゃんっ!?」
「っ……!!」
 
 
 
 
倒れなかった。
 
 
 
 
「……はっ、馬鹿正直で助かった……」
 
 
 
 
苦痛の滲む表情で、なのは笑った。
痛みはある、衝撃もあった、それでも高町なのはは倒れない。
見れば狙撃手だろう、観客のいない外円部で身を隠すことも忘れ、唖然としている。
狙撃は成功した。
念のためもう一発撃ち込んだ。
弾は確かに命中したし、試合用に展開している防御フィールド防ぐことは不可能だ。
ならば……なぜ、生きているのか。
 
 
 
 
「狙うなら心臓か頭、だよねぇ……」
なのはは痛みに顔を顰めながらも立ち上がる。
押さえていた胸から手を離すと……そこに傷跡はなかった。
いや、くっきりと皮下出血はしているだろう。
けれど、その程度、だ。
 
 
 
 
「あ……ち、違う、わ、私じゃ、ない……」
「……だろうね……」
 
 
 
 
視線を移せば、何が起こったのか察したのだろう、青い顔をしたナスティは必死に首を振った。
なのはも思ってはいない。
ナスティ・グリーアブルは良くも悪くも小物……『小心者』なのだ。
脅しに使うことはあっても、自分の目の前で人の命を奪うような、そんな大それたことが出来るはずがない。
むしろなのはは、半分くらいは『自分ではなかった』かもしれないと思っている。
暗殺ギルドに慌てたような動きがある、そう報告を受けたなのは達はすぐに対策を練った。
もちろん、それが自分たちの決闘に際して差し向けられるという確たる証拠はなかったが、
タイミングとギルドの動きからその可能性は高かった。
問題は防御フィールドだ。
通常であれば、弾丸がなのはのフィールド突き破ることなどあり得ない。
けれど試合中は別だ。
配布されるフィールド容量を超える出力は出せないし、全身に張ったところで極力大けがを防ぐため、という程度のものでしかない。
だからなのはは……最初から防御フィールドを張っていなかった。
試合開始の前からアリサ達と狙撃手の位置の特定に努め、
弾を打ち出す瞬間の僅かな魔力波のみを頼りに、防御フィールドの全出力をもって、狙われた心臓の上にだけ展開したのだ。
一点集中された強固なフィールドは、衝撃緩和をつけることは叶わなかったが、見事に弾の貫通を阻止してみせた。
狙撃手の腕が悪くなかったのも幸いだった。
下手くそな狙撃手だったら、フィールドから外れた部分に着弾し、今頃大惨事だったに違いない。
 
 
 
 
「た、確かに、当たったのに……ひっ!?」
「そこまでです。暗殺ギルドが昼間にノコノコ姿を現すなんて珍しいわね。お得意さんのお願い、断れなかったってとこかしら?」
「う、く……」
「動かないで! 動くとその頭、吹き飛びますよ?」
 
 
 
 
両手に構えられたクロスミラージュ。
その片方が狙撃手の頭を正確にポイントしていた。
海鳴領諜報部所属の密偵、ティアナだった。
 
 
 
 
「殺人未遂の現行犯……申し開きの必要はないですね? 貴方の身柄を拘束します」
 
 
 
 
同じ頃、反対側の外円部でも驚きを隠せない人物がいた。
狙撃の命令を下したディオニスである。
 
 
 
 
「ば、馬鹿な……なぜ生きている……化け物めっ……!!」
 
 
 
 
食い入るように舞台の上を見つめていたが、思い出したようにあたりを見回した。
理由は分からないが、明らかに失敗だ。
早々に身を隠す必要がある。
 
 
 
 
「戻って次の手を考えるしかあるまい……くそ……っ!?」
 
 
 
 
踵を返し歩き出したディオニスは、突然背後に気配を感じ振り返った。
先ほどまでいなかったはずの女性……すずかがいた。
 
 
 
 
「き、貴様……」
「……暗殺ギルドに依頼をするなど……馬鹿な真似を致しましたね、ディオニス様」
 
 
 
 
声を荒げるでもなく、嘲るでもなく、むしろ悲しげにすずかは言った。
暗殺ギルドは当然非合法な集団だ。
世界は言うに及ばず、根絶に努める時空公国においては、厳罰の対象となりうる暗殺ギルドとの接触。
ましてや領主を、しかも神聖な決闘の最中に狙うという、卑劣極まりない行為の現行犯だ。
罪が軽いはずが無い。
そしてディオニスが、暗殺ギルドとの太いパイプを持っていたということは……
この男によって、それだけの命が既に奪われているということなのだ。
 
 
 
 
「もう逃げられません、大人しく投降を……」
「ふ、逃げられなくはないだろう……お前を倒せばいいだけだ!」
「っ!?」
『Protection』
「なにっ!?」
「紫電……一閃!!」
「ぐぁぁぁっ!?」
 
 
 
 
すずかを昏倒させてから、脱出を謀るつもりだったのだろう。
ディオニスはすずかに殴りかかろうと距離を詰めた。
放たれた拳がすずかに触れようとした刹那、スバルの青いバリアが受け止める。
その隙を逃さず閃いた銀光、シグナムのレヴァンティンに切り伏せられたディオニスはその場に倒れ伏し沈黙した。
 
 
 
 
「ふぃー……大丈夫ですかすずかさん?」
「怪我はないか?」
「平気です。ありがとうございますシグナムさん、スバル」
「無事に終わったみたいね」
「シャマル」
「シャマルさんの転移魔法のおかけです」
 
 
 
 
ディオニスの後ろに突然すずかが現れたのは、シャマルの転移魔法によるものだった。
狙撃手の位置の割り出しの後、すずか達はディオニスの居場所も追っていた。
直接命令を下すなら、狙撃手から見える位置にいると踏んでいた。
そして暗殺者とディオニス、双方を捕えるためになのはは……自らを囮として使ったのだった。
 
 
 
 
「……終わったみたいだね」
 
 
 
 
なのはは狙撃手を拘束するティアナと、ディオニスを叩き伏せたすずか達を一瞥するとそう言った。
距離があるのではっきりとは分からないが、滞りなく終ったように見えた。
……これでもう、この茶番に付き合う必要はなくなった。
 
 
 
 
「さて……言い残すことがあるなら一応聞いてあげるけど?」
「ま、まて、私はこの件には絡んでいない。だ、だから話を……」
「関係ないよ……はやてちゃんを泣かせた奴は……私がこの手でぶっ飛ばす。ディバイン……」
「まっ……」
「バスターッ!!」
 
 
 
 
光の奔流が立ちすくむナスティを直撃する。
……終わりは呆気ないほどに簡単なものだった。
 
 
 
 
 ◇
 
 
 
 
「お疲れ様、なのは」
「アリサちゃん」
「一応聞くけど、生きてるわよね、アレ?」
「んー……たぶん生きてるんじゃないかな? 百回くらい殴り倒してもまだ足りないけどね」
 
 
 
 
試合終了後、アリサは舞台から担架で運ばれていくナスティを指して苦笑した。
途中までそれなりに盛り上がっていたのだから、幕切れに何らかのアクションがあってもいいと思うのだが、
会場はざわめきが漏れる程度の声しか聞こえなかった。
ある意味では、諸侯に対する良い牽制になったかもしれないが。
危険、逆らうな、と。
 
 
 
 
「なのはちゃん!」
「はやてちゃん! 見ててくれた、私の……」
「この……どあほぉぉぉっ!!」
「もぷぅっ!?」
 
 
 
 
駆け寄ってきたはやてに抱きつこうと、両腕を広げたなのは。
……しかし返ってきたのは、有無を言わせぬはやてのボディブローだった。
 
 
 
 
「自分の命を賭けるとか何しとんねん、あほたれっ!!」
「ふぇぇぇ、だ、だって、一番それが手っ取り早い……ぴっ!?」
「命を粗末にして手っ取り早いもへったくれも無いわ!」
「あー……はやて、まぁ落ち着きなさいよ」
「落ち着くとこちゃうし!」
「いや、まぁ……でも今回これが一番効率がよかったのも確かなのよ……なのはだけが悪いわけじゃないわ」
 
 
 
 
囮になる、と言いだしたのはなのは自身だったが、了承したのはアリサ達である。
予定通りに事が運び、ほとんどの作戦の立案者だったアリサはあたしって天才! と内心ガッツポーズしていた。
しかしこうして非を責められると、アリサも反省せざるを得ない部分が多々あった。
スピードと効率重視、人道面……まぁ主になのはや関係者達のだが、において配慮が欠けていたのもまた事実だった。
はやてに知らせなかったのは、観戦中に余計な心配をかけさせないためだったのだが、
他の人より舞台にずっと近い貴賓席にいたはやては何があったのか、その目でほとんど見たのだろう。
試合が終わると真っ先に階段を駆け下り、ここまで走ってきた時点ではやての憤りが窺えた。
 
 
 
 
「私のために早く決着つけてくれようとしたんや、って、そんなん分かっとる。
 そやけど、そやけどな……なのはちゃんに何かあったら、それこそ何にも、ならんやないかぁ……」
「はやてちゃん……」
 
 
 
 
なのはにしがみついたまま、ぽろぽろと涙をこぼし始めるはやて。
なのはは何か言おうか迷って……結局何も言わずにただその細い肩を抱き締めた。
かつて、一度は手放さざるを得なかった温もり。
勝ち取った、宝物。
 
 
 
 
「うー……皆の前で号泣とか……しゃれにならんわぁー……」
「あはは……ごめんね、はやてちゃん」
 
 
 
 
しばらく泣き続け、ようやく涙が落ち着いたはやて。
少し身体を離して笑うと、不意になのはが表情を改めた。
 
 
 
 
「……八神はやてさん、一つだけ、お願いがあります」
「んぁ?」
「私と、婚約してくれますか?」
 
 
 
 
……沈黙が落ちた。
 
 
 
 
「……」
「あんたね……」
「あたしらがいるの忘れてねぇーか?」
「あまりいいタイミングとは思えんが……」
「……あ、あれ? いや、ほら、ね、
 せっかくこれで、婚約解消できたわけだし、だったら早い方がいいかなぁ〜……なんて……あぅ」
 
 
 
 
注がれる呆れた視線にたじろぐなのは。
なんか色々抑えられなくて言ったはいいが、言われてみればこのタイミングってどうだろう。
普通プロポーズ? とかは人の目の無いとこでするものだった気がするぞ、となのはの背中を冷や汗が伝った。
 
 
 
 
「……なのはちゃん」
「あ、はい」
「……私と結婚したいん?」
「え、うん、そりゃもちろん……」
「それやったら……約束して……命を粗末にせぇへんて。私より、先に死んだりせぇへんて……」
 
 
 
 
そしたら、ずっと一緒にいたるわ……そう言ってはやては笑った。
 
 
 
 
「っ……うん……約束、するよ。悪運はきっと強いから、はやてちゃんより、長生きだって出来るよ、きっと……だから……」
 
 
 
 
昔、言うことの出来なかった、言葉。
もう言えないかもしれないと思っていた言葉が、いとも簡単に唇から滑り落ちた。
 
 
 
 
「私と、ずっと一緒に、いてください……」
「……はい」
 
 
 
 
長い長い旅の果てに、ようやく安らぎを手にいれた。
これから先も平坦な道ではないけれど、一人じゃないなら、きっと遠くまで歩いて行ける。
 
 
 
 
「っ〜〜〜〜!! やったぁー! お嫁さんゲットーッ!!」
「正確には婚約者だけどね」
「けっ、やかましいやつだぜ……」
「ヴィータちゃーん!!」
「おわぁっ!? こっちくんななのは!?」
「あ、はやてちゃんと私が結婚ってことは……ヴィータちゃんとも家族だよー♪」
「はぁっ!? ふざけんな、誰がお前となんて……って、抱きつくなー!!」
 
 
 
 
歓喜のあまり、その場でテンションが突き抜けたなのはは、ついでにヴィータにも抱きついた。
離れろー! と叫ぶヴィータはとても迷惑そうな顔をしていたが……緩む頬はごまかしきれない。
はやてが幸せになることに異議なんてあるわけがない。
相手がこれなあたりは不幸かもしれないと、悪態くらいはつくけれど。
 
 
 
 
「……はやて、あんた選択間違ったんじゃないの?」
「言わんといてやアリサちゃん……」
「ま、いいわ、なのは共々、キリキリ働いてもらうから」
「あはは……よろしくおねがいしますぅ〜」
 
 
 
 
苦笑もちょっぴり混ぜながら、笑顔の時間は過ぎていく。
 
 
 
 
「ほらほら、帰るわよーなのは」
「はぁーい♪」
 
 
 
 
束の間の休息の時だった。





...To be Continued


2010/9/1


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