第三話の三『なのは様、略奪す!』

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「アイゼン!」
『Schwalbefliegen』
「うらぁぁぁぁっ!」
『Accel Shooter』
「シュート!」
 
 
 
 
ドン!
……と重たい音に続き飛来するヴィータちゃんの攻撃。
私に向かって殺到してくるそれに、シューターを当てて相殺していく。
一つ、二つ、三つ……
ぶつかり合う度に飛散する粉塵に徐々に視界を奪われる。
すでにお互い直接的な攻撃を行いながらも膠着状態が続いている。
気遣いを含んだ戦いは総じて生ぬるいものだ。
 
 
 
 
「っ……」
 
 
 
 
視界の不明瞭さをものともせずに撃ちまくるヴィータちゃんに対し、私も負けじとシューターを撃ちつづける。
二十一、二十二、二十三……
やがて破壊した数が40を越えた頃、視界が完全に奪われた。
ヴィータちゃんの姿は見えない。
だけど……
 
 
 
 
「でぇぇやぁぁぁぁっ!!」
『Round Shield』
 
 
 
 
ギイィンッ!
 
 
 
 
「甘いねヴィータちゃん、動きが直線的すぎるよ」
「く、うぉぉぉっ!」
降り下ろされたグラーフアイゼンを受け止めると、ギチギチと悲鳴をあげるシールドとの接触点。
それでも私のシールドが破られる気配はない。
 
 
 
 
「っ、ちぃっ……!?」
『Short Buster』
「くぅっ!?」
「……軽すぎだよヴィータちゃん」
 
 
 
 
ヴィータちゃんの攻撃を防ぎきり、ショートバスターでヴィータちゃんを吹き飛ばしながら私は呟く。
シールドで受け止めた攻撃は、想像よりも遥かに軽い一撃だった。
ヴィータちゃんの戦闘スタイルは相手が何であっても打ち砕く突進型。
単純であるが故にその破壊力の怖さはよく知っている。
それなのに、今のヴィータちゃんはどうだ。
玉砕覚悟でありながらその攻撃は軽すぎる。
迷いが、そのまま戦いに表れてしまっているから。
 
 
 
 
「くそ……」
「やめる気はない?」
「んだと……」
 
 
 
 
気付いてる?
 
 
 
 
「……今のヴィータちゃんじゃ、私には勝てないよ」
 
 
 
 
泣きそうだよヴィータちゃん?
 
 
 
 
「……それでも、それでもアタシはぜってぇ引かねぇ! アイゼン!」
 
 
 
 
でも、やめないんだよね?
 
 
 
 
「っ、頑固だね……」
 
 
 
 
だったら……私はそれに応えるよ。
 
 
 
 
「お前ほどじゃねぇよ……おぉぉぉっ!」
 
 
 
 
お互いに分かっている、これがどれだけ不毛な戦いか。
だけど止まれない理由があるから、譲れないものがあるから、私達は止まらない。
 
 
 
 
「おぉぉぉっ!!」
「はぁぁぁっ!!」
 
 
 
 
ガキィンッ!
 
 
 
 
「っ!」
 
 
 
 
レイジングハートとグラーフアイゼンが正面からぶつかり火花を散らす。
受け止めて押し返すと更にもう一度打ち込まれる。
何度も何度も。
近接戦は得意じゃない、なんて言っていられない。
ヴィータちゃんも私も一歩も引かず睨み合う。
そんな中、私は少しずつ慎重にヴィータちゃんの背後へとシューターを誘導する。
気づかれないようにゆっくりと、防御の手は緩めずに。
後少し……捉えた!
 
 
 
 
「く……これで終わりっ……!?」
「飛竜一閃!」
 
 
 
 
瞬間、右腕に焼けるような痛みが走った。
 
 
 
 
「つぁっ……シグナム、さん!?」
「てめ……邪魔してんじゃねぇぞシグナム!」
 
 
 
 
シューターでヴィータちゃんを昏倒させようとしたところに飛来した銀の一閃。
ヴィータちゃんとシューターの制御に思考の大半を割いていたとはいえ、注意を怠ったわけではない。
それでもシグナムさんの一撃は鋭く、かわしきれなかった私の右腕を浅く裂いた。
……やっぱりシグナムさんも強いなぁ……
 
 
 
 
「すまんな……だが主の命ゆえ、私もただ眺めているわけにはいかなくてな」
「はやてがシグナムを……」
「……そっか……」
 
 
 
 
本気だねはやてちゃん。
……ちょっと腹立たしいくらいに。
 
 
 
 
「さて……これでお前は私達二人を相手にしなければならなくなったわけだが……続けるか?」
「当然です、障害が多い方が運命って感じじゃないですか」
「……嫌な運命だな、おい」
「ちょ、ひどいよヴィータちゃん」
 
 
 
 
心底嫌そうな顔をするヴィータちゃんと苦笑するシグナムさん。
いやいやいや、私とはやてちゃんが結ばれるのは運命だって。
 
 
 
 
「っていうか運命にするまでだから」
「その意気込みは認めよう……だが先へは進ません!」
「りゃぁぁぁっ!」
「ちっ……レイジングハート!」
『Protection』
 
 
 
 
ずん、とバリアに感じる重い手応え。
二人分になった攻撃に、さすがに私のバリアも悲鳴をあげる。
 
 
 
 
「っ、シュート!」
 
 
 
 
二人の攻撃を受け流し、後退しながらシューターを放つ。
同時にバスターのチャージをスタート。
シューターの方はあっさりとかわされるが……それでいい。
狙いすました一撃ならともかく、高速発射していかなければ威嚇にもならないこの状況ではシューターだけで二人を退けるのは不可能だ。
 
 
 
 
「はっ! ……どうしたなのは、この程度の攻撃で我々は止められんぞ!」
 
 
 
 
裂帛の気合と共に真っ二つに切り裂かれる私のシューター。
シグナムさんにしても迷いはあるだろうに、動きにそれをまったく感じさせない。
さすがだとは思うが、面倒極まりない。
 
 
 
 
「はぁぁぁっ!」
「くっ……」
『Flash Move』
 
 
 
 
決して無視出来ないようにシューターで足止めをしようにも、シグナムさんには通用しない。
緊急回避で距離をとろとしても速さは向こうが上。
シューターを切り裂き、あるいは掻い潜りジリジリと距離をつめられる。
 
 
 
 
「どうしたなのは、シューターの制御があまくなってるぜ!」
 
 
 
 
同じようにシューターを叩き潰しながら突っ込んでくるヴィータちゃん。
二人を同時に相手にしているため、シューターの数はすでに私が扱える最大数。
これ以上増やすことは出来ないし、増やしたところで制御を外れて暴走するだけだ。
……むむぅ、さすがにこの二人相手はちょっと大変。
だけどバスターのチャージはもう終わるし、もうちょいなんか牽制してそれから……だぁーもう!
 
 
 
 
「くぁー! めんどくさい! レイジングハートォ!」
『All right,My master,Countdown start,10,9,8……』
 
 
 
 
発射直前まで溜めたバスターをキャンセルしてブレイカーのチャージ分に魔力をまわす。
それでもさすがに、スターライトブレイカーの発射には足を止めて更なるチャージをする必要がある。
高速移動とシューターの制御を放棄し、私は魔方陣を展開した。
 
 
 
 
「なっ、バカかお前ぇは!」
「私たちがチャージタイムをとらせると思っているのか!」
「さぁね! どうなるかはやってみなくちゃ分からないよ!」
『7,6……』
「そうか……ならば受けてみろ! 紫電一閃!」
「ギガント……ハンマーッ!!」
 
 
 
 
当然二人ともチャージを黙って待ってはくれない。
私をめがけて降り下ろされる剣と鉄槌。
迫り来るそれを見据えそして……
 
 
 
 
ドオォォォンッ……!!
 
 
 
 
「……やったか?」
「分からん、だが正面から今のを受けるとは……いったい何を考えている……」
 
 
 
 
攻撃の余波で辺りに立ち込める煙。
真っ白に染まる視界。
波が引くように煙が晴れれば。
 
 
 
 
『……5,4,3……』
「なんっ……無傷!? しかもチャージが止まってねぇ!?」
「バカな! 防御魔法も張らずに今のをどうやって……!?」
 
 
 
 
現れたのはノーダメージでチャージを続ける私とレイジングハート。
驚愕に揺れる二人に向けて私は今の攻撃を防いでくれたブツをポケットから取り出した。
 
 
 
 
「ふっふっふっふー。お見せしましょう、ザ・秘密兵器、忍さんお手製歪曲場シールド発生装置ポケットタイプ!」
「なっ……!?」
「おまっ……反則だろそれっ!?」
「アイアム、ジャスティス!」
「うおぉぉいっ!?」
 
 
 
 
ででーん、と掲げたそれに出る二人の盛大な文句。
二人の渾身の一撃を防ぎきったのは、忍さんが色々置いていってくれたアイテムの一つだった。
ありがとう忍さん。いつぞやにいただいた品、とても役に立ってます。
 
 
 
 
『2……』
「ちっ、だがまだ間に合っ……くぅっ!?」
「つぁっ!? バ、バインド!?」
「ふふふふ、逃がさないよ二人とも」
 
 
 
 
諦めない二人のこと、チャージが完了するまでにもう一度仕掛けることは予測済みだ。
煙にまぎれてひっそりとかけておいたバインドを発動。
レストリクトロックで二人をその場に拘束する。
その間にもぐんぐんと大きさを増す魔法球。
さー、っとヴィータちゃんの顔がさすがに青ざめる。
 
 
 
 
「ばっ、おま……死ぬってそれ……」
「非殺傷設定だから大丈夫! ……たぶん」
「たぶんってなんだよ! ちっとも信用できねぇよ!! ……って、諦め入ってんなよシグナム!?」
「ふ……ヴィータ、騎士たるもの負けは潔く認めるものだ」
「あんな変なもん使ってる時点でちっとも綺麗じゃねぇよ!?」
『1……』
 
 
 
 
ジタバタと抜け出そうとこの期に及んでもがくヴィータちゃん。
ふふふふ、やだなぁヴィータちゃん、私のバインドがそんなに短時間で解けるはずないじゃない。
死なないはずだから心配しなくていいよ?
死にそうなくらいは痛いかもしれないけどね……うん、きっと大丈夫。
 
 
 
 
「ほら、フェイトちゃんとはやてちゃんも通った道だから!」
「ふざけんな! やっぱお前なんかにはやては渡さねぇぇぇっ!!」
「全部終わったらまとめて面倒みてあげるから心配ないよ!」
「そんなの嫌だぁぁぁぁっ!?」
『0,Starlight Breaker 』
 
 
 
 
そして世界は、私の魔力光で埋め尽くされた。



 
 
 


...To be Continued


 

2009/6/14


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