第三話の二『なのは様、略奪す!』 ゆっくりと地平線へ沈んでいく太陽。 バルコニーから眺めるそれは赤く燃え上がり、昼間よりも強く燃えているように感じてしまう。 けれど、その太陽が沈めばすぐに闇が訪れる。 深い深い闇の夜。 私の世界と同じ。 呑み込まれる前に、私ごと焼き付くしてくれればいいのに。 「……主はやて、上衣もかけずそんなとこにおられますと風邪をひいてしまいますよ?」 「……あぁ、シグナム。ごめんなぁ、ぼーっとしとったわ」 背中からかけられる優しい声。 振り仰いだ先の表情は、どこか悲しげに歪められている。 「……どないしたん、そんな顔して」 「いえ……」 その表情の意味を知っていて、そんな質問を投げかける。 私はこの上もなく意地悪だ。 「……主はやて」 「ん?」 「……よろしかったのですか?」 「……なにが?」 「ヴィータに……なのはを止めるよう命じられたことです」 「ええも悪いも……」 良かったのか悪かったのか、そんな風に考えること自体に意味がない。 選択の時はすでに過ぎたのだ。 例えそれが、選択とすら呼べないものであったとしても。 大切なものを守るために、私が出来る最善を尽くす以外の術はない。 「なのはちゃんがここに来て、それでどうなるんよ?」 「それは……」 「事態が悪くなるだけや、そうやろ?」 「……」 私の言葉に何か返そうとして、結局は何ま言えず唇を噛むシグナム。 私は大事な騎士達に、こんな顔ばかりさせている。 ごめんな、こんな主で。 ……それでも、もう引き返すことは出来なかった。 「私は、皆が傍におってくれたらそれで平気や」 「主……」 「なのはちゃんかて、アリサちゃんやすずかちゃん、それにフェイトちゃんがおる、大丈夫や」 「そう、ですね……」 ……そう、大丈夫だ。 現状で私が出来る最善がこれなのだ。 胸の奥に感じる痛みは……きっと、ただの未練だ。 時間はかかっても、いつか消えていくはず……そうでなければならない。 「さぁ、この話はここでしまいや」 「しかし……」 「代わりにシグナムにもお願いがあるんよ」 「……なんでしょうか?」 「あんな……」 「はい」 「シグナムにも、ヴィータと一緒になのはちゃんを止めてきてほしいんよ」 「なっ……」 「ヴィータ一人でなのはちゃんの相手をするんは、ちょお荷が重いやろ?」 ヴィータは強い。 だけど、こうと決めた時のなのはちゃんはもっと強い。 迷いのあるヴィータ一人では辛いはずだ。 迷いの原因が私であるなら尚更。 「せやから、シグナムにも行ってほしいんよ」 「……主はやて、貴女は本当に……」 「私は……八神の当主や」 ごめんな。 ……これが、私の答えや、なのはちゃん。
...To be Continued
2009/3/14著
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