第三話の一『なのは様、略奪す!』

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
最初は、目の前に広がるそれに呆然と立ち尽くしていた。
世界中を染めた、闇。
そしてその中心に位置している大切な友の姿。
本当にそれが元々は彼女だったのかと疑いを抱きそうになる程変わってしまった。

……その瞳に、大粒の涙を溜めている以外は。
 
 
 
 
『……っ!』
 
 
 
 
目の前で今にも泣きそうな顔をしているのは、大きな力を持った戦うべき相手。
自分のそれより、遥か上を行く知識と魔力。
……だけど、怯んでいる暇なんてなかった。
 
 
 
 
『助けるよ、絶対に助けてみせる!』
 
 
 
 
今まさに闇に呑まれようとしている彼女達がいるのに、どうして逃げ出すことなんて出来る?
流れ落ちる一雫の涙。
それを拭ってあげられない未来なんて、私は絶対認めない。
 
 
 
 
『行くよ! レイジングハート!』
 
 
 
 
たとえこの先、生き残ることでどれ程の怨嗟を彼女達が背負っていくことになったとしても。
 
 
 
 
『……なのは、ちゃん……』
『大丈夫、終わりになんかさせないよ!』
 
 
 
 
その隣で、一緒に歩いていくことを誓うから。
 
 
 
 
『スターライト……ブレイカァーッ!!』
 
 
 
 
だから、その涙を私に預けて。
 
 
 
 

 
 
 
 
ユーノ君とクロノ君のとこへ来訪を終えた私はミッドの空を飛んでいる。
空はもう茜色。
あっという間に過ぎてしまった時間を、沈もうとしている太陽が現していた。
 
 
 
 
「……夕焼けは凄く、綺麗なんだけど、な……」
 
 
 
 
建物の中から見る景色と違い、今私が目にしているのは遮蔽物の全く無い空。
雲一つ無い空には青と紫、そして沈み行く太陽の赤によるグラデーションが展開されている。
眼下に広がる人の欲望の権力の象徴、作り上げられた貴族地区の街並みになど目もくれない。
空は、いつでも変わらずにそこにある。
人がどれ程汚れても。
 
 
 
 
「まぁ、とりあえず私はのほほんとお嫁さんが迎えられればそれでいいんだけどね」
 
 
 
 
見栄と欲望の塊達が何をしようと知ったことじゃない。
権力闘争がしたいならお好きにどうぞ、だ。
私達の障害になるようなら話は別だが。
 
 
 
 
「その時はお話しを……って、おや?」
 
 
 
 
そんな若干物騒なことを考えながら飛ぶ私の眼前、夕日よりも濃い赤を着て、見覚えのあるシルエットが佇んでいた。
 
 
 
 
「……よぉ」
「……お出迎えかな、ヴィータちゃん」
「……あぁ、まぁそんなもんかな」
 
 
 
 
ここ最近会うことの無かったヴィータちゃん。
はやてちゃんの騎士。
どうせなら、にこやかに談笑でもしながはやてちゃんのところへ連れていってほしいのだけど……
その手に握られたグラーフアイゼンがそれを許してくれそうにない。
 
 
 
 
「……お前のことは嫌いじゃない」
「それは、光栄だね」
「でも、あたしははやての騎士だ」
「うん」
「だから、ここは通さない」
「……はやてちゃんの命令、かな」
「……そうだ、はやてはお前に来て欲しくない」
 
 
 
 
その言葉を最後に、私に向けてグラーフアイゼンを構えるヴィータちゃん。
騎士として忠実にはやてちゃんの言葉を守ろうとしている。
それはつまり、はやてちゃんが私に来て欲しくない、と本当にヴィータちゃんに言ったから。
 
 
 
 
「……はやてちゃんは、優しいね」
「そうさ、はやてはすっげー優しいんだ、だから……」
「損な役回りばかり買って出る」
 
 
 
 
私がはやてちゃんを迎えに行くことで、何が起きるのかはやてちゃんは知っている。
それはひょっとしたら色んな人達を危険に晒しただけじゃなく、不幸にするかもしれない行為。
だから、はやてちゃんは諦める。
幸せとか、普通とか、そんなごくありふれた願いの全てを。
……バカだね、はやてちゃん。
はやてちゃんが諦める必要なんかないんだよ?
 
 
 
 
「願ってもいいし、手を伸ばしたっていいんだ。それでも届かないなら足りない分は私が叶えて見せるから」
「うるさいっ! アイゼン!!」
『Gefängnis der Magie』
「レイジグハート!」
『Standby, ready』
 
 
 
 
ねぇ、はやてちゃん?
知ってる?
私ね、はやてちゃんと違ってね……とっても諦めが悪いんだ。
覚悟、しといてくれるかな?



 
 
 


...To be Continued


 

2009/2/1著


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