第一話『なのは様、覚醒す!』

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
チュンチュン・・・・チチチ・・・・
 
 
 
 
「ん・・・もう朝か・・・・・」
 
 
 
 
差し込む光に目を開き、大きく伸びをする。
そして隣で寝ているすずかを、起こさないようにベッドを降り、支度を始める。
私、アリサ・バニングスの朝は早い。
こうして日の出とともに起き、仕事へと向かうのだ。
 
 
 
 
「早寝早起き、我ながら健康的な生活ではあるわよね」
 
 
 
 
まぁ早寝な時ばかりではないのだけど、と苦笑しつつ、
赤い上下のクラシカルな服に袖を通し、襟を整えリボンをつける。
私がこの海鳴領の大臣に就任して早四年。
やっと、この服にも慣れてきたところだ。
準備がすむと、まず自分用に割り当てられた仕事部屋へ向かう。
この時、一度食堂に寄ってお湯を貰うのを忘れない。
日課であるモーニングティー入れるためだ。
最高級の葉をきちんと蒸らし、カップへと注ぐ。
そのうっとりするような芳香を堪能し、そして一口目を口に含み・・・・・
 
 
 
 
ドドドドドッ!バンッ!!
 
 
 
 
「アリサちゃん!私、フェイトちゃんとはやてちゃんを、お嫁さんにしたいっ!!」
「ぶふうっ!!?」
 
 
 
 
吹いた。
 
 
 
 
「うわっ!?だ、大丈夫アリサちゃん!?」
「大丈夫じゃないのはアンタの頭よ!!」
 
 
 
 
いきなり何を言い出すのよコイツは!
そしてなにより、私のお茶を返せっ!!
 
 
 
 
「ええっ!?そ、そんなことないよ!!」
「そんなことあるでしょう!大体何なのよ、こんなに急に!」
「だって、二人をお嫁さんにして、皆で暮らす夢を見たんだもの!」
「何だってそんな傍迷惑な夢を見るのよ!それにただの夢でしょう!」
「違うよ!天からの啓示だよ!!」
「違うわよ!作者の腐った願望よ!!」
 
 
 
 
そうよ、こんなものが天からの啓示であって堪るものですか!
 
 
 
 
「アリサちゃん・・・・でも、それでも私は・・・・・この夢を諦めきれないよ!!」
「腐った願望を、夢という綺麗な言葉に置き換えたか・・・・」
「にゃははは・・・・・」
「笑って誤魔化すんじゃないわよ!」
 
 
 
 
どんな言葉に置き換えたって、アホな発言には違いない。
全くもって面倒くさい。
 
 
 
 
「うー、だってそれだと、私も腐ってることになっちゃうじゃない」
「アンタの場合、腐ってるっていうより、頭沸いてる、って感じだけどね」
「うにゅ〜、酷いよアリサちゃん・・・・」
 
 
 
 
なのはは眉を寄せ、しょんぼりと肩を落とすが、
その瞳はそれでも爛々と輝いている。
これだけ言っても諦める様子がないのだから、本気なんだろうけど・・・・・
正直、迷惑以外の何物でもない。
 
 
 
 
「それにアリサちゃんだって、いつも私に早く結婚しろ、ってうるさいじゃない」
 
 
 
 
確かに言ってるわよ。
曲がりなりにも領主である以上は、早急に身を固めてほしいし、
跡継ぎだって、いるに越したことはないんだから。
なのに、なのはときたら可愛い女の子を囲うばかりだし。
それならそれで、いっそ誰かと間違いでも、と思わなくもないけど、結局その子達とも特に何もないし。
だけど、だけどね・・・・・
 
 
 
 
「誰が嫁さんを貰えと言ったーーーー!!!」
 
 
 
 
結婚は普通に男としろ、って言ってるのよ、私は!!
 
 
 
 
「えー!だって可愛い女の子の方がいいじゃない!」
「普通に男と結婚したっていいでしょう!」
「じゃあ、アリサちゃんはすずかちゃんが男の人と結婚してもいいの?」
「絶っ対無理!!」
「・・・・アリサちゃん」
 
 
 
 
そんなの無理。
絶対嫌だ。
っていうか、すずかは既に私のお嫁さんなんだから、ダメに決まってるでしょう!
 
 
 
 
「とにかく、今回の件については、私は反対だからね!」
「そんなぁ〜・・・・・」
 
 
 
 
ただ単に、結婚したい相手が二人、ってだけならそんなに問題はない。
公国は一夫多妻でも大丈夫だから。
更に相手が女性でも問題は・・・・それなりにあるけど、
魔法技術の応用で子供も作れるので、まぁ最悪跡継ぎ問題にまでは発展しないので、
とりあえずは、いいだろう。
けれども、なのはが名前を挙げた二人については、問題がありまくりなのだ。
これ以上余計な仕事を増やさないためにも、ここは断固として突っぱねるしかない。
 
 
 
 
「アリサちゃ〜ん・・・・」
「しつこいわよ、なのは。この件はもうお終いよ」
「でも・・・・」
「・・・・アリサちゃん、なのはちゃん、朝からどうしたの?」
 
 
 
 
私の打ち切り宣告になのはが食い下がっていると、そこにすずかがやって来た。
ふと時計を見ると、確かにいつもすずかが起きてくる時間で、
要するにそれまでの雑用を片付ける為の時間が、なのはの戯言に潰された形となる。
傍迷惑な・・・・
誰の為の仕事だと思ってるのよ。
そう思い睨み付けようにも、なのはは、すずかにさっきまでの件を説明して縋っているので、それには気がつかない。
 
 
 
 
「ねぇすずかちゃん、フェイトちゃんやはやてちゃんがいた方が、楽しいと思うよね?」
「まだ言うかこいつは・・・・・」
「そうね・・・・確かに楽しそうね」
「でしょう♪」
「ちょっ・・・・すずか!?」
 
 
 
 
何を言い出すのよ、あんたまで!?
さらりと、爆弾発言をする妻に眩暈を覚えつつも、私は二人に向かって捲くし立てる。
 
 
 
 
「他の人ならともかく、その二人が問題を抱えてるのは分かってるでしょう!!」
 
 
 
 
一般人ならともかく、あの二人は例外もいいところだ。

まず一人目、フェイト・テスタロッサ。
彼女は現在、海鳴領のはずれにある自身の研究塔にて、
一匹の使い魔と、そして二人の児童と供に暮らしている。
また、魔導師としての能力と知識は一級品で、迎え入れれば海鳴領にとっても有益なものになるだろう。
けれど、過去に母親であるプレシア・テスタロッサが起こした事件のせいで、
公国内で彼女を敵視している者も、少なくはない。
加えて、最近ではルード王国の皇太子が彼女を自らの物にすべく、様々な方法で動いている。
そこに横槍を入れれば、ルード王国の国柄的に、最悪戦争になりかねない。
 
 
 
 
「そうだね・・・フェイトちゃんはルード王国が絡んでるし、はやてちゃんは・・・・・」
 
 
 
 
そう、二人目の人物、八神はやて。
こちらも、フェイト・テスタロッサに負けず劣らず、大きな問題を抱えている。
彼女は、現在公国の首都クラナガンで、四人の騎士と一人の亜精霊と供に暮らしている。
そして遠縁ではあるものの、公国王家の血を引く貴族の一人だ。
しかし彼女もまた、過去に起きた闇の書の事件のせいで、敵視する者はフェイトより多い。
固有戦力である、騎士達の力についても危険視されている。
更に言えば、ディザ領の領主である、ナスティ・グリーアブル侯との結婚が既に決まっている状態だ。
無論、所謂政略結婚の類であり、闇の書の件を盾に結ばれたものであるが、
手を出せば、公国領内の関係悪化、どころかこちらも内戦になりかねない。
 
 
 
 
「なのは、アンタだって分かってるでしょう?」
「うん・・・・でもアリサちゃん、二人とも私にとっては大切な人だよ」
「それだって分かってるわよ、でも政治的なものも絡んでる以上、海鳴領の大臣として、認めるわけにはいかないわ」
「アリサちゃん・・・・・」
 
 
 
 
私はこの領の大臣だ、相応の責任がある。
先代から任され、ここまで発展させてきた自負もある。
その私が、民を不幸にするかもしれない選択をするわけにはいかないのだ。
・・・・けれど。
 
 
 
 
「・・・・そこまで言うなら、私個人としては、考えてあげなくもないわ」
「え・・・?」
「アリサちゃん・・・・?」
 
 
 
 
フェイトもはやても、私にとっても大切な友達だ。
なればこそ、幸せになってほしいと思うのは当たり前だ。
それになのはは、腐れ縁で、気がつきゃ私の仕える人だし、
可愛い女の子にはすぐに手を出すし、理想を追求することしか考えてなくて、
後始末するのはいつだって私だけど・・・・・・大事な大事な親友なのだ。
皆まとめて幸せになってくれるなら、それが一番いいに決まってる。
 
 
 
 
「だいたい、いつだってアンタは、大事な事は『命令』じゃなくて、『お願い』で済ますじゃない」
「あ、あははは・・・・そう言えばそうかも・・・・・」
「どうせ今回もその『お願い』を通す通す気なんでしょ。全く、毎度毎度、苦労させられるわ」
「えへへ・・・・ごめんね、アリサちゃん・・・・・・ありがとう」
「ふんっ、でもさっき言ったことも嘘じゃないわよ、大臣としては反対なんだからね」
 
 
 
 
これが『命令』であれば、血迷った主君を諌めるなり、見限るなり出来る。
けれど、高町なのはの『お願い』であれば、余程のことが無い限り・・・・・
いや、余程のことだけれども、出来うる限り叶えてやろうと思うのだ。
 
 
 
 
「うん、出来るだけ、いい形でなんとかするよ」
「どうだか・・・・・」
 
 
 
 
まぁ、どうせ今回も後始末をするのは私なんだろうし、せいぜい頑張ってほしいものだわね。
・・・・ただ、今回は外交問題も大いに絡んでいる以上、
外務担当のすずかにも、大きな負担がかかってしまう点に関しては、どうしたものか・・・・
 
 
 
 
「私の事は気にしなくていいよ、アリサちゃん」
「すずか・・・・」
「私だって、なのはちゃんはもちろん、フェイトちゃんとはやてちゃんの友達なんだから」
「うん・・・・分かってるけどさ」
「大丈夫だよ、私もアリサちゃんと同じ気持ちだから」
「・・・・そういえば、さっきのアリサちゃん格好良かったよね」
「ふふ、もちろん、私の旦那様だもの」 
 
 
 
 
ピトッ、っとくっつかれた腕が熱い。
なんでこう、恥ずかしいセリフをさらっと言えるのかな、うちの奥さんはさぁ。
そんで目が合うとにっこり笑ってくれるし。
だから、それが可愛いすぎるんだって、いつも言ってるでしょう!!
 
 
 
 
「アリサちゃん、思ってることだだ漏れだよ・・・・・」
「う、うるさいわね!すずかが可愛いのは本当なんだから、しょうがないでしょ!!」
「ア、アリサちゃん、恥ずかしいよ・・・・」
「う〜・・・いいな〜、私も早くお嫁さん貰ってイチャイチャしたい」
 
 
 
 
頬を染めて恥らうのがまた可愛い・・・・って、今はそれどころじゃなくて、
これからどうするべきか、考えるのが先よね、うん。戻って来い私の思考。
多大な問題を抱えた二人・・・・と、それに付随する7人と一匹、計10名も領内に迎える形、
前代未聞の事態だけど、やると決めた以上、なんとかしてやろうじゃないのよ。
 
 
 
 
「それで、なのは」
「ん?」
「具体的にはどうするかは、考えてるの?」
「もちろん、まずは二人の所に行って、結婚の申し込みをするでしょ?」
「うん」
「それでね、二人にウェディングドレスを着てもらって、結婚式をするの♪」
 
 
 
 
両手に花♪なんて言いながら笑うなのは。
なんだか嫌な予感が・・・・・
 
 
 
 
「・・・・それで?」
「え、終わりだよ?後は皆で一緒に暮らすの♪」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・あれ?」
「・・・・一緒に暮らすの♪・・・・・じゃなぁーーーーいっ!」
「ふみゃあっ!?」
 
 
 
 
頭にきた私は、思いっきりなのはの頭を引っぱたく。
ええ、そうよ、なのはのことだから、どうせ何にも考えてないと思ってたわよ。
だけど、本当に何も考えてないって、どういうことなのよっ!!
 
 
 
 
「そんなに簡単にいくなら、誰も反対なんてしないわよ、このおバカ!!」
「ふえぇぇぇ・・・・」
 
 
 
 
内外の問題があまりに多い、
って言った私の話を聞いて無かったわけじゃないでしょうに、コイツは・・・・・
というより、本来言うほどバカじゃない割に、こういう事が多いから、
コイツは私を怒らせるために、わざとやってるんじゃないかと思ってしまう。
 
 
 
 
「ふふ、なのはちゃんらしくはあるけれど・・・・・」
「らしくなくていいのよ、そんなの」
「いいじゃないアリサちゃん、だから私達がここにいるんでしょう?」
 
 
 
 
ねっ?と微笑みかけてくるすずか。
分かってるわよ、なのはがなのはだから私達がここにいる、ここにいたいと思ってることくらい。
でもね、すずか・・・・・
 
 
 
 
「このすっとぼけた顔見ると、引っぱたきたくなるのよね・・・・」
「えう・・・そんな〜・・・・・・」
「はぁ・・・まぁいいわ、内務と外務は私とすずかの分野だもんね」
「ええ、うまくいくように私とアリサちゃんで、中と外はなんとかするから」
「うん、ありがとうアリサちゃん、すずかちゃん!」
 
 
 
 
にぱっと笑うなのは。ほんと、こいつは笑顔だけはいいのよね・・・・
 
 
 
 
「それに全部片付いたら、二人に休暇もだせると思うから!!」
「休暇・・・・?」
「うん、まだ新婚旅行に行けてないでしょう?二人で行けるように手配するから!」
 
 
 
 
休暇、二人っきり、新婚旅行・・・・いいかも。
 
 
 
 
「あ、でも、一、二日で帰って来いって言うんじゃないでしょうね?」
「まさか!一週間くらいどどーん!っと、楽しんで来ちゃってよ♪」
 
 
 
 
すずかと二人っきりで一週間、その間仕事も無く、のんびり二人で・・・・・・
 
 
 
 
ガシッ!!
 
 
 
 
「なのはっ!」
「う、うん、何かなアリサちゃん」
「最高のプランを用意してあげるわ!!」
「あ、ありがとう、アリサちゃん・・・・」
 
 
 
 
変わり身が早いとか、言うなかれ。
すずかとの旅行のためなら、私は相手が神や悪魔だろうと容赦はしない!
実際には神でも悪魔でもなくて、花嫁の略奪に他国との戦争だが、
そんな現実やら倫理なんて、知ったこっちゃない。
すずかとの旅行のあらゆる障害は、撃破すべきものなのだ!
 
 
 
 
「あ、皆さんお揃いですね、おはようございます〜」
「おはようございます。早速ですが昨日の案件についてなんですが・・・・」
「スバル、ティアナ、いいところに来たわ!席につきなさい!」
「「えっ?」」
「これから最重要案件の会議よ!!」
「「ええっ!?」」
 
 
 
 
驚嘆している二人に構わず、私は話を進める。
海鳴領大臣、アリサ・バニングスの名において、
妻との旅行のため、ついでに親友の幸せのため、最高の形でこのプランを成功させてやろうじゃないの!
 
 
 
 
「なのは!しくじるんじゃないわよ!!」
「もちろんだよ、アリサちゃん!絶対に二人をお嫁さんにしてみせるよ!!」
 
 
 
 
こうして、少々ばかばかしくとも、私達の新たな戦いは幕を開けたのであった・・・・・・



 
 
 


...To be Continued


 

2007/9/16著


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