番外編その三 「……母さん」 「フェイト……」 「紹介するよ、こちらが高町なのはさん。私の……大切な人だよ」 「は、はじめまして。高町なのは、です……よ、よろしくお願いします……」 「……」 でん、と駅前通りに面した高級マンション。 その最上階のフェイトの家、すなわちハラオウン家では、居合わせた面子の緊張が最高潮に達していた。 先日、フェイトの窮地に際し一時帰国していたフェイトの母、 リンディは息子のクロノも呼び寄せ、エイミィと三人でなのはの紹介を受けていた。 初めて顔を合わせるフェイトの家族に、大切な人、などと紹介されたなのはは緊張を隠せない。 「はー……美少女だー……」 「黙ってろエイミィ」 ぽかんとなのはを見つめるエイミィとそれを諭すクロノの声を聞きながら、 大丈夫だよ、となのはの隣で手を握るフェイトの顔に、リンディは笑みをこらえていた。 母であるリンディは、人当たりの悪さに隠された、フェイトの優しさを知っている。 それが誰にも向けられることがないのを寂しく思っていたが、今こうしてなのはに向けられているのを目に出来た。 それを引き出してくれたなのはには、感謝してもしたりない。 「ごめんなさいねなのはさん、フェイトが迷惑をかけたみたいで……」 「い、いえ、そんな……その、寂しかったりしたけど、前よりもっとフェイトちゃんと仲良くなれましたから……」 「そう……ありがとうなのはさん」 リンディがそう微笑んだところで、ようやく向かいのソファに座るなのはも緊張が解けたように微笑んだ。 いい子が傍に来てくれた、とリンディもまた安堵する。 今日のお互いの顔合わせは概ね成功と言ってよかった。 ……一つの失敗だけ除けばだが。 「ふふ、なんだか緊張しちゃったわね。あ、なのはさんもお茶どうぞ?」 「あ、はい、いただきます」 にこやかに差し出されたお茶になのはは口をつける。 「あれ? 母さんが淹れたの?」 「ええ、なのはさんに喜んでもらおうと思って♪」 「ちょ!? な、なのは、それ飲んじゃダメ!!」 遅かった。 「え?」 ゴクッ……フラッ……バタッ。 「なのは? なのはーっ!?」 その後、リンディ茶は娘と息子の反対により、しばらく使用禁止になったのだった。
2010/6/20著
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