高町さんちの育児日記3

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「あれ、ヴィヴィオとフェイトちゃんも帰ってるの?」
「おかえりなのはママー」
「お、おおおお帰り、なのは……」
「ただいまー、今日は私が最後かぁ〜」
 
 
 
 
にゃはは、でもフェイトちゃんは出張帰りだもんね、お疲れ様フェイトちゃん――そんな風に私を労わってくれるなのは。
無事に家に帰ってこれてよかった、と思う至福の瞬間。
……だけど、今日は隠し事、もとい事後承諾事項があるからちょっとだけ後ろめたい。
だからだろうか、そ、そうだね、なのはもお疲れ様……と少々上ずった声になってしまった。
 
 
 
 
「……フェイトちゃん?」
 
 
 
 
一瞬、パチリ、となのはは瞳を瞬かせると、次の瞬間眉根がよった。
……自分の演技力の無さに涙が出そうだ。
 
 
 
 
「フェイトちゃん」
「ななな、なにかな、なのは?」
「……今日は何を隠してるのフェイトちゃん?」
「べ、別に、なに、も……近い! 近いよなのはっ!?」
「どうして逃げるのフェイトちゃん」
「だって近いよ!?」
「愛があれば平気なの」
「そんな!?」
「ないの?」
「あるよ!!」
 
 
 
 
ないわけがない。
むしろありすぎて困る。
ドキドキするよ!?
 
 
 
 
「むぅ……じゃあ何があったの?」
「えーと……」
 
 
 
 
愛が云々の部分は信じてもらえたらしい(ほっぺた赤くなったし)けど、疑問が解けない限りなのはの追及が止むことはない。
正直に言えばいい。
それが最善だと私だって分かってる。
だけど心の準備くらいはしたいんだ……
 
 
 
 
「……また倒れたりしてないよね?」
「あ、うん、それは平気……」
「じゃあご飯ちゃんと食べなかった……とかはシャーリーが大丈夫って言ってたし……」
「どうして私の副官の報告がなのはにいくのかな……」
「だってフェイトちゃんが心配なんだもん」
 
 
 
 
なのはは少し頬を膨らませると、拗ねた様に言った。
私だっていつも心配してるけど……心配をかけることがあるのも事実だし、きっとお互い譲らない。
離れている時間が多い分、どうしたって互いの事が気になるのだ。
副官から報告がいくのはあれだけど、それもまた想われていればこそだろう。
 
 
 
 
「……大丈夫、ご飯も食べたしどこも怪我してないしなんともないよ」
「ほんと?」
「うん、ほんと。ただ、その……今回の事件の事をどう話せばいいか迷ってただけなんだ」
「そっか……それで今回は何があったの?」
「その、事後承諾であれなんだけど、実は……」
「フェイトママがねぇー、赤ちゃん拾って帰ってきたのー」
「ぶほぅっ!?」
「ふぇぇぇっ!?」
 
 
 
 
これ以上なのはに余計な心配はかけたくない。
やっと気持ちの整理をつけて真実を語ろうとしたところに、背後からとても素敵な横槍が入った。
どうやら私達のやり取りをじれったく思っていたらしい。
まるっきり嘘ではないけど、その表現ってどうなのかなヴィヴィオっ!?
 
 
 
 
「フェイトちゃん……」
「な、なのは、誤解……」
「……犬猫とは違うんだよフェイトちゃん?」
「いや、その、それは私も分かっては……」
 
 
 
 
ならどうして拾うなんてことになるの? となのはは苦笑した。
いやいやいや、違うんだよなのは。
色々ちょっと訳があるだけで、別にそんな拾ってきたとか言うわけじゃないんだよ?
そう必死に取り繕う私を見てぷるぷると肩を震わせているヴィヴィオ。
……確信犯だ!!
 
 
 
 
「……ヴィヴィオ」
「……ぷはっ、ごめんごめんフェイトママ、睨まないでよ」
「睨みたくもなるよ、もう……」
 
 
 
 
えへへー、と笑う中にもまた見え隠れする悪友の影。
笑顔自体はなのはによく似てる気がするから、それで良しとするべきなのかと最近思考が消極的だ。
こういう時『海』が中心の勤務は恨めしい。
 
 
 
 
「まったく……えっととにかく、別に拾ってきたとかじゃないし、違法なこともしてないよ?」
「うん……」
「でも……向こうの施設は、ちょっと……」
 
 
 
 
赤ん坊に認められた特異な魔力資質。
管理局の施設は違法施設なんかとはもちろん違う。
 
 
 
 
「だけど……置いておきたくなかったんだ……」
 
 
 
 
多かれ少なかれ私達魔導師もまた彼らの研究対象には違いない。
だけどあそこに置いてきてしまったら、きっとこの子はこれから先、ずっとあの視線晒されて生きて行く。
……それはどうしても嫌だった。
 
 
 
 
「……で、フェイトちゃんが保護責任者になって引き取ってきたわけだ」
「う、ん……」
 
 
 
 
それでもこれでよかったのだろうかという思いもやっぱりあって、視線が少し下を向いてしまう。
そんな私の頬になのはの両手が添えられる。
持ち上げられた視線の先には、いつもと変わらない私が大好きな蒼い瞳があった。
 
 
 
 
「それでも、間違ってるとは思ってないんでしょ?」
「……うん」
「なんとかしてあげたかったんだよね? 私も、間違ってないと思う。胸張っていいんだよフェイトちゃん?」
「なのは……」
 
 
 
 
帰ってくる前に一言くらい報告が欲しかったけどね、そう言ってなのははくすっと笑った。
後ろからは案ずるより産むが易しだよー、フェイトママー? なんてヴィヴィオの声も聞こえてくる。
大好きな私の家族。
この温もりを少しでも多く、この子に分けてあげたい。
落ちてくる涙を一生懸命拭いながらそう思った。



...To be Continued


2011/11/24著


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