高町さんちの育児日記1

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「えーっと、じゃあ私報告書提出してから帰りますけど……本当に大丈夫ですか、フェイトさん?」
 
 
 
 
そう言って心持ち心配そうな顔を私に向けるシャーリー。
心配をかけていることは申し訳ないと思うけど、優しい副官に私は顔を綻ばせた。
彼女がいてくれるおかげで仕事中でも格段に気が楽になる。
色々迷惑をかけることも多いので、彼女の方はそうでもないかもしれないけれど。
 
 
 
 
「ありがとうシャーリー、でも大丈夫、なんとかするよ」
「ええまぁ……ありのまま話せば分かってもらえるとは思いますけど……」
「うん、たぶんね」
「いえ、問題はフェイトさんがてんぱって余計なことを口走らないかの方だと」
「うぐ……が、頑張るよ……」
 
 
 
 
シャーリーの一言が普通にぐさっと突き刺さる。
反論しようにも出来ないところが情けない。
うんほんと、余計なこと言いそうで私も怖いよ。
 
 
 
 
「じゃあ気をつけてくださいね、お疲れ様ですフェイトさん」
「お疲れ様シャーリー」
 
 
 
 
軽く手振ってシャーリーと別れると、私は局内に執務用にと充てられた自室へと足を向ける。
何人かの局員とすれ違い、軽く笑みや会釈を交わしながら短い距離を歩くと、目的の場所にはすぐについた。
そしてドアの前までくると、部屋の中から聞こえる、声。
 
 
 
 
「って、うわ、ちょ……」
 
 
 
 
泣き声だった。
 
 
 
 
「ど、ドアロックドアロック……はわわ、ごめんごめん、置いてったわけじゃないんだよ?」
 
 
 
 
慌てて私がロックを解除し、室内に滑り込むとそこには予想通り、大泣きをする赤ん坊がいた。
眠っているからと起こさないように部屋を出たのだが、赤ん坊にそれが分かるはずもない。
急いで抱きあげてあやし始めると、びえーからぐすぐすになって、すぐにあぅー♪と楽しげな声に変わった。
よかった、どうやら機嫌は直ったらしい。
 
 
 
 
「ふぅ……よかった。しかし……これからどうしようかなぁ……」
 
 
 
 
ぽんぽんと背中を叩くと、上機嫌にきゃっきゃと笑う赤ん坊。
可愛い、凄く可愛い。
えも可愛いからってそれで終わりになる話ではない。
 
 
 
 
「うーん……」
 
 
 
 
私の腕の中で笑う赤ん坊、それは今回の事件の被害者であり、また生き残りでもあった。
管理世界の一つで起きた規模の小さなテロ事件。
建物が数件消し飛び、崩れただけだった。
私が追っていた犯行グループのものでは最も少ない被害。
だけど、この子から全てを奪うにはそれだけで十分だった。
母親と父親らしき人物に守られるようにして赤ん坊は瓦礫の中から見つかった。
奇跡的に赤ん坊はほぼ無傷だったが、赤ん坊は何もかも失った。
帰る場所も、自分を抱きあげる腕も、名前を呼ぶ優しい声さえ。
 
 
 
 
「……ごめんね。間に合わなくて、何も出来なくて、ごめんね……」
 
 
 
 
事件後、本来であれば赤ん坊はその世界の施設に預けられるはずだった。
けれど実際には一時的に保護していた赤ん坊の処遇について、局員と私はかなり激しくもめることになった。
検査の結果、赤ん坊に特異な魔力資質が認められたのだ。
研究科の局員は色めきたった、是非うちに欲しい、と。
目の前が怒りで赤く染まった。
 
 
 
 
「……大人は勝手だね。あの人達も、もちろん私も」
 
 
 
 
彼らに渡すわけにはいかない、その想いが私を突き動かした。
気がつけば「私が引き取ります!」なんて叫んでしまっているほどに。
引くに引けない、どころか引く気なんてこれっぽちも無く、半ば強引に押し切ると私とシャーリーは赤ん坊を連れて帰還した。
……問題はこの後だ。
 
 
 
 
「……なのはとヴィヴィオになんて言おう……」
 
 
 
 
最愛の家族である二人の姿を思い浮かべる。
事情を話せば二人は快く迎えてくれるのではないかと思うが、それでも一抹の不安は拭えない。
何よりこの子を引き取れば『海』で過ごすことが多い私より、
実際に世話をすることになる、なのはとヴィヴィオの負担の方がずっと大きいに違いない。
あれか、最悪別居でベビーシッターだのみというやつだろうか?
 
 
 
 
「うぅ、そ、想像しただけでもぞっとする……」
 
 
 
 
そんなことにはならないと思う、というかならないように上手く話をしなくてはならない。
どういう形になるにしろ、まずはきちんと話さなければ始まらない。
そう決心した私は、それでも未練がましくのろのろと立ち上がり、いつもの倍の時間をかけて帰宅の途についたのだった。





...To be Continued


2011/2/7著


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