EndlessChain X〜月影〜














「……むぅ、やっぱりこっちのワンピースにするべきか、いやいやこっちのスカートも捨てがたい……」
 
 
 
 
じっ、とファッション雑誌を見つめながら、あーでもないこうでもないと唸り続ける。
こういう雑誌にはとんと縁が無かったけれど、中々どうして、結構いいものがあるものだ。
私には関係ない、と素通りしていて悪かった。
今度からは毎週欠かさずに目を通すことにしよう、と心に決める。
 
 
 
 
「たまには活発な感じにショートパンツなんかも……いやだめだ、短い物を履いて健康的な足とか見せられた日には襲わないでいる自信が無い。……あ、でも二―ソックスなんかと合わせればいけなくは……いやいや、絶対領域とかそれはそれできっと恐ろしい……」
 
 
 
 
そう、ファッション誌、と言ってももちろん私の為ではない。
今更新しい服を買う必要なんてほとんどないし、買うにしても似たような物になるだろうから、大して迷っうことも無い。
今買う物、といったら当然なのはの物に決まってる。
なのはの衣服はアリサが数着用意してくれたけど、それはそれこれはこれ。
季節が変わればその度に必要だし、何よりせっかく可愛いのだから、あれこれ着せたい。
……世間一般には服を贈るのは脱がせたいからだ、なんて都市伝説があるらしいが、そんなやましい理由からではけして無い。
そう、私は純粋に可愛いなのはを愛でたい、ただそれだけなんだ。
 
 
 
 
「ふ……ふふふふ…………」
 
 
 
 
にやぁ、っと口元が歪む。
人生薔薇色ってきっとこういうことを言うんだね♪
 
 
 
 
「……んに……フェイトちゃん……?」
「あ、おはようなのは、よく眠れたかな」
「ん……」
 
 
 
 
起きだしてきたなのはに、私は涎の垂れそうだった口元を引き締める。
キリッとした私はなのはのカッコいい王子様、そうあってしかるべき。
ちょっと失敗して目じりが下がったままな気がするけど、それくらいならきっと大丈夫。
 
 
 
 
「……なにみてるの?」
「ん、あぁファッション誌だよ。なのははどれがいいと思う?」
「んー……?」
 
 
 
 
ごしごしと目元をこすりながら、とてて、となのはは私に寄ってくる。
そしてそのまま雑誌を覗き込む……のかと思ったら、なんと私の膝の上によじ登り始めた。
何度か座りなおして、気にいる位置を見つけたらしいなのは、そのままちょこんと私の膝の上に落ち着いた。
…………え、これ何の御褒美でしょうかなのはさん?
 
 
 
 
「あ、の……なの、は……?」
「んにゃ……これ、とこれ……」
「う、うん……ふ、二つだけでいいのかな? もっと多くても、いいんだよ?」
「ん……」
「?」
「……フェイトちゃんが、いるから、他はあんまり……いらない……にゃは」
「っっっ!?」
 
 
 
 
そう言ってぴとっ、と私にくっつくなのは。
寝ぼけてる、寝ぼけてるんだねなのは……だけどとっても可愛いよ!
 
 
 
 
「な、なのは……」
「にゅ……フェイトちゃん、あったかい……」
 
 
 
 
はふぅ、と息をついてなのははすり寄る。
全力で頑張っている私の理性が、がらがらと崩れ落ちる音がする。
なのはが狙ってやってる訳じゃないことは知っている。
でもだけどそれでも私にだって我慢の限界とか狼さんになっちゃいそうとかもう食べちゃってもいいですかとかとにかく色々あるんだよ!!
……結論。
いただきます!!
 
 
 
 
「なのはっ!! …………あれ?」
「うに……すー……」
「…………え、ちょ…………」
 
 
 
 
据え膳食わぬはなんとやら……いや男じゃないけど、この際もうどっちでも構わない。
腕の中のなのはをがばっと抱き締めようとして、なのはが何の反応も示さない事に気がついた。
私に寄りかかって、目を閉じているなのは。
その呼吸は規則正しく、ようするに眠ってしまったらしい……あの、ちょっと、私のこの想い、どこに行けばいいのかな……
 
 
 
 
「……なのはの、ばか……うぅ……」
 
 
 
 
それからなのはが目を覚ますまでの間、私は幸せな拷問にしくしくと耐え続けたのだった……ぐすん。
 
 
 
 ◇
 
 
 
「……ん……あれ……? 私、なんで……」
「起きた……?」
「ふぇっ!? ふぇ、フェイトちゃん!? わ、私なんでフェイトちゃんにくっついて……」
「……それはなのはがフェイトちゃん大好き、って私にくっついてきたからだよ……」
「ふぇぇぇっ!?」
 
 
 
 
ぶわっ、と滝の様に流れる心の涙とがたがたな理性で、なのはが起きるまで私はなんとか耐え切った。
きっとこれはなのはが大人になるまで待ちなさい、っていう天からの啓示なんだと必死に言い聞かせて頑張った。
今なら少しくらい悟りが開けるかもしれない。
ちょっとした意地悪くらいしたってバチはきっと当たらない、当たってたまるか。
 
 
 
 
「ご、ごめんねフェイトちゃん、すぐどくから……」
「ダメ、離さない」
「にゃっ!? あぅあぅ…………はぅ」
 
 
 
 
慌ててわたわたと私から離れようとするなのは。
ふっふっふ、私がそれを許すなんて思ってるのかな君は。
逃がさないようにぎゅっと抱きしめて、腕の中に閉じ込める。
可愛い鳴き声を上げたなのはは、脱出を試みるも私の腕からは抜け出せない。
やがて観念したのか大人しくなった。
かぷ、と首筋にささる牙。
……んん?
 
 
 
 
「……なのは」
「はわっ……あ、あのね、フェイトちゃん、だってね、ぎゅってされたら目の前がフェイトちゃんの首筋で、だからつい……ごめんなさい……」
 
 
 
 
どうやら目の前に私というご飯があって、ついぱくっと齧りついてしまったらしい。
吸血衝動をまだ上手く制御出来ないなのはは、それでもいつも中々私の血を吸ってはくれない。
おずおずと遠慮がちに吸う姿も可愛いけれど、こうやって甘えながら吸ってくれるのが本当は一番私も嬉しい。
 
 
 
 
「いいよ、怒ってないから……いつでも好きなだけ吸っていいって言ったよね?」
「う、だって……私ばっかり……」
 
 
 
 
優しく言うと、なのははちょっぴり拗ねたように言って俯いた。
密かに私が求めないことを気にしていたらしい。
 
 
 
 
「ふふ、ありがとうなのは。でも平気だよ、大人になるとそんなに頻繁に起こるわけじゃないし、元々私はあまり衝動が強い方じゃないからね」
「そうなの……?」
「うん、体質にもよるし」
「……うん……じゃあもし食べたくなったら、ちゃんと言ってね。私をフェイトちゃんにあげるから……」
「……いや、あの、その言い方は色々とまずいと思うんだけど……」
「?」
「……う、ぐ……いや、いいんだ、ありがとう……」
 
 
 
 
自分も何か返したい、というなのはの気遣いがありがたいし、凄く嬉しい。
反面、もうちょっと言葉を選んでもらわないと、私の理性がとても可哀相なことになる。
今だってさっきすり減った分を一生懸命修復中なのに……増える傍から減っていく気がするのは、きっと気のせいじゃないと思う。
こんなにもあっさり揺れる自分を、他の誰も、私自身想像したことは無いだろう。
ただ一人君だけが、いとも容易く私を酔わせる。
 
 
 
 
「まったく、なのはには敵わないよ……」
「ふぇ……?」
「私がなのはを大好きだってこと、かな」
「ふぇ、フェイトちゃん!? う、それは、その……あ、何笑って……わ、私の方がフェイトちゃんのこと好きだもん!」
「っ……ふ……本当に敵わない」
 
 
 
 
そうやって君は私を夢中にさせる。
本当に君には敵わない。
……そしてそれは、理性とか心だけじゃないんだと思い知る。
 
 
 
――ドクンッ
 
 
 
「っ!?」
「フェイト、ちゃん?」
 
 
 
 
このまま優しい時が続けばいい、そう思っていた私の身体を熱が襲う。
いつもと違う、久しぶりの、この感覚は。
 
 
 
 
「……いや、なんでも……」
 
 
 
 
ない、と言おうとして言葉が途切れる。
一際大きく打ち鳴らした心臓が煩い程に音を立て、どくどくと全身を巡る血が痛いくらいに熱を帯び、激しい飢えを訴える。
愛する者を喰らえばいいと囁く身体。
 
 
 
 
「フェイトちゃん!?」
「……だい、じょうぶ……ちょっと頭痛が、ね……」
「でも……」
「ごめんね、薬と水、持ってきてくれるかな……?」
「……うん、すぐ持ってくるね?」
 
 
 
 
それでもなんとか取り繕うと、なのはには水と薬をお願いして私から遠ざける。
まだだ、まだダメだ。
もう少しだけ時間が欲しい。
なのははやっと、自分の衝動を覚え始めたばかりなのだから。
 
 
 
 
「だから……あと少しだけ……」
 
 
 
 
震えそうになる指先で、アリサへの通信を繋ぐ。
用件だけを伝えると、すぐに切れた通信に安堵し、ソファに深く身を沈める。
きっとそう時間を置かず、すぐにアリサがやってきてくれるだろう。
幸い私は、瞳の色自体が紅いから、衝動を告げる瞳の明滅も気づかれにくい。
だからきっと大丈夫。
時間を稼いでやり過ごせる。
 
 
 
 
「フェイトちゃん、お薬とお水……」
「あぁ……ありがとうなのは……」
「……」
「……なのは?」
 
 
 
 
上手く誤魔化してアリサを待とう。
そう決めた私の元へ戻ったなのはは、薬と水を持ってはいたが、近寄ってくる気配がない。
訝しく思っていると、なのはは私ではなく、机に水と薬を置くと、まっすぐに私に向き直る。
……まさか。
 
 
 
 
「……嘘はやだよ、フェイトちゃん……」
「っ!? なん、で……」
「……わかるよ……だって、フェイトちゃんの事だもん。今一番にフェイトちゃんの事を見てるのは、私だもんっ……」
 
 
 
 
挑むようになのはは叫ぶ。
そして動かない、いや、動けないでいる私に、なのはが抱きつく。
鼻孔をくすぐる甘い香りとなのはの存在。
今にも牙を穿ちそうな身体を必死の思いで押し止め、私はなのはの肩を押し返す。
 
 
 
 
「……ダメだよなのは」
「どうして? さっき約束したよねフェイトちゃん」
「あれは……」
 
 
 
 
こんなに早くだとは思っていなかった。
ちゃんとなのはが自分の衝動にも慣れて、余裕が出来たらその時にと思っていたのに……
 
 
 
 
「私、平気だよ?」
「なのは……」
「フェイトちゃんだから平気なの。ううん、フェイトちゃんがいい」
 
 
 
 
私を見つめるまっすぐななのはの瞳。
初めて会った時から、私を惹きつけて止まない、大好きな蒼。
私がいい、と言い切ったなのはは、私の頭を小さな両腕で抱えるように抱き締めた。
私の目に映るなのはの白い、綺麗な首筋。
 
 
 
 
「お願い、フェイトちゃん……」
「……なのは」
 
 
 
 
伸びる牙、叫ぶ身体。
 
 
 
 
「フェイトちゃんに私をあげる。……だから」
 
 
 
 
最後の一押しは、君自身の手によって。
 
 
 
 
「フェイトちゃんを、私にください」
 
 
 
 
一舐めした首筋を、私の牙が貫いた。
 
 
 
 
「ぁっ……!!」
「……っ」
「ん、ぁ……フェイト、ちゃ……」
 
 
 
 
抱き締めたなのはの小さな身体。
いつもとは反対に、その身体から流れる血を今度は私が吸い上げる。
初めて味わう、なのはの血。
甘くて、焦れて、ただ愛しい。
同じようで、他の誰とも違う、私を満たせる唯一の。
 
 
 
 
「ぁ、ぅ……んぅ……」
「……はっ、はっ……!!」
「っ……フェイト……ちゃん……はっ……」
「なの、は……」
 
 
 
 
ずっと、こうしていたい……そんな風になのはを貪ろうとする己の牙を、半ば強引になのはの身体から引き抜いた。
僅かに飲み損ねたなのはの血が、私の口元を滑り落ちる。
いつの間にかソファに横たわっていた私達。
覆いかぶさるようにしている私と、荒い息をつきながら私を見上げるなのは。
交差する紅と蒼。
――止まれるわけが、ない。
 
 
 
 
「なのは……」
「フェイトちゃん……ん……ぁっ……」
「ふっ……ん……なの、は……」
「ぁ……んん……ふぁ……」
 
 
 
 
惹き合うようにして触れる唇。
最初はゆっくり、重ねるだけだった口付けは、奪うように求め合うものへと姿を変える。
 
 
 
 
「はっ……なの、は、なのはっ……!!」
「フェイト、ちゃ……き……大好き……んんっ!!」
 
 
 
 
縋るように伸ばされた手を取って指を絡める。
小さな手、小さな身体、愛しい少女。
壊してしまわないようにと、ギリギリのところで繋いでいる理性さえ、いつ手放してしまうか分からない。
私もなのはも、互いを求める口付けに溺れていた。
……だから、それにちっとも気付かなかった。
 
 
 
 
「…………フェーイート〜っ!?」
「っ!?」
 
 
 
 
地を這うような低音の怒りが鼓膜に届く。
夢中になっていたその行為から、がばっと身を起こせば、背後に紅蓮の炎を纏ったアリサがそこにいた。
 
 
 
 
「ほんっっっとに、子供に何してんのよあんたはーっ!! スゥーパーアリサキィィィックッ!!」
「いや待ってこれは合意の上でのぷろもげらぁっ!?」
 
 
 
 
烈火のごとく怒ったアリサが、私の話なんてもちろん聞いてくれるはずもなく、なんとか言い訳をしようとしていた私の顔面に、アリサのとび蹴りがめり込んだ。
そのままなのはの上から強制的に引き剥がされた私は、ぼて、ぼて、とリビングの床をバウンドし転がった。
そして壁まで転がって身体が止まると、今度は遅れてやってきた顔面の痛みにびちびちと床をのたうち回る。
まな板の上の鯉とか網焼きにされてるエビは、きっとこんな気持ちなんだと嬉しくないことを実感する。
出来れば一生知りたくなかったそんなこと。
 
 
 
 
「っっっ〜〜〜〜!?」
「ふぇ、フェイトちゃん!?」
「ふん、ダメよなのは近寄っちゃ、変態がうつるわ」
 
 
 
 
あっという間の出来事に、呆気に取られていたなのはもどうやら正気に戻ったらしい。
心配そうな声にほろりと涙がこぼれそうになるけど、直後のアリサの声で色々全部引っ込んだ。
変態って、変態って……!!
 
 
 
 
「くぅっ……!! い、いきなりとび蹴りとか酷いじゃないかアリサ!!」
「変態を蹴り飛ばして一体何が悪いのよ!」
「だから変態じゃないってば!」
「ロリコンは立派な犯罪よ!!」
 
 
 
 
猛烈な勢いで押されている変態・ロリコンの烙印。
なのはも聞いてるっていうのに、なんてことを言うんだ本当に。
 
 
 
 
「違う! 小さい子じゃなくて私はなのはが好きなんだ!」
「……だからそれを変態って言うんじゃない」
「ふぐぅっ……」
 
 
 
 
びしっ、と言い切って決まったと思ったのも束の間、それが何とばかりに鼻で笑って否定された。
おかしい、なぜ分かってくれない。
なのはを愛するのに性別や年齢が障害になるのだろうか、いや違う、そんなはずはない、だって私はなのはの事を愛しているから!
 
 
 
 
「……性別もだけど、年齢はもっとやばいでしょうよ……」
「…………まぁ、うん、思わなくもないけどさ……」
 
 
 
 
バカなの?頭沸いてんの? と、およそ親友に向けるとは思えない冷たい視線で見るアリサ。
なのはへの愛を譲る気はこれっぽっちも無いけれど、いかんせん色々手が出ちゃった私の方が分が悪い。
 
 
 
 
「まったく……いくらなのはがいいって言っても、あんたの方が大人なんだから少しくらい自重なさい」
「……はい……」
 
 
 
 
分かってる、私だって分かってはいるんだよ。
ただ大人だってこう色々リミットがブレイクしちゃうことがあったりなかったりするわけではいすいませんごめんなさい。
 
 
 
 
「……まぁいいわ、血の問題は一応よくなったみたいだし、あたしは帰るわ。とりあえず非常食置いてくから、やばくなったらこれ使いなさい」
「はっ? 非常食って何……って、えっ、何その大量の血液パック……」
「血を吸うたびに襲ってたらきりがないじゃない。ちゃんと冷蔵庫に入れとくのよ、じゃあね」
 
 
 
 
でん、と袋に積まれた血液パック。
徳用パックも真っ青な量のそれを置いて、アリサはさっさと帰って行った。
 
 
 
 
「……」
「……」
 
 
 
 
飲め、と激しく主張する山盛りの血液パック。
さっきまでならむしろ私は喜んだと思う。
だけど、一度なのはの味を知ってしまった私には、何の嫌がらせかと思うほどの拷問だ。
でもアリサの言うことももっともなわけでして……
 
 
 
 
「うぅぅ……」
「えと……フェイトちゃん?」
「く……ごめん、なのは……その、止まらなくなっちゃって……」
 
 
 
 
よくよく考えればアリサが来なかったとしたら、あの先は一体どうなっていたのだろうか。
突き詰めると、大人として大変よろしくないところに辿りつきそうで、私は強制的に思考を放棄した。
世の中には考えない方がいいこともあるって、昔の偉い人も言ってたし。
 
 
 
 
「あの、あのね、フェイトちゃん……」
「うん……」
「えと……あの……わ、私が大人になるまで……待ってて、くれる……?」
「………………え」
 
 
 
 
怒られても嫌がられてもショックだけど甘んじて受けとめよう、そう身構えていた私のハートに何かが『ずがん!』と落っこちた。
…………もしもしなのはさん、今何か凄い事おっしゃいませんでしたか?
 
 
 
 
「さ、さっきのもね、嫌じゃ、なかったけど、でも、あの、やっぱりアリサちゃんが言うように、も、もう少し私が大きくなってからの方が、いいのかな、って……あぅ……」
「…………」
 
 
 
 
真っ赤な顔で一生懸命、私に伝えようと頑張るなのは。
なんだろう、さっきの顔面キックをも上回る、この言葉の数々。
萌えて死ねるならきっと今なんじゃないかと思う。
 
 
 
 
「〜〜〜〜っ、なのはっ!!」
「にゃぁぁっ!?」
 
 
 
 
辛抱たまらん、と限界に達した私は目の前可愛い生き物を抱き締めた。
あぁもう絶対手放さない。
 
 
 
 
「分かった、なのはが大人になるまで、ちゃんと我慢する」
「フェイトちゃん……えと、数十年かかるけど、大丈夫?」
「すうじゅ……う、うん、もももちろん、だよ……あはは」
 
 
 
 
……そうか、なのはが大人になるまでっていうと、確かにそれぐらいは必要だ。
確かにそれはかなり辛い……けど……いいさ、耐えて見せようじゃないか。
私のなのはへの気持ちは、そんな半端なものではないのだから。
 
 
 
 
「……でも時々、大丈夫そうな時は、ちょっとくらい血をもらってもいいかな?」
「う、うん! もちろんいいよ」
「あと時々、よりもほんとに時々、う、うっかりキスくらいはしちゃうかもだけど、それもいいよね」
「……え、えーと、うん……?」
「あぁぁ、あ、あとはほら、毎日こうやって抱き締めるのはむしろ日課にしたい、っていうか日課でいいと思っ」
「……フェイトちゃん」
「……ごめんなさい……」
 
 
 
 
あれもこれもと、次々増やす私に、さすがになのはも苦笑い。
あんまり制限が制限として機能していない。
いやだって、我慢はするけど、何もしなかったら私はきっと、そう遠くない未来に干からびる、間違いない。
そんな心中だだ漏れの私に対して……
 
 
 
 
「もぉ、しょうがないんだからフェイトちゃんは……」
 
 
 
 
そう言って笑ったなのはが、私の頬に、ちゅ、と触れるだけのキスをした。
……断言する、いつか私が決壊するとしたら、それは絶対なのはの天然のせいだ。
無意識に誘うとか止めてほしい……!!
 
 
 
 
「フェイトちゃん?」
「……いや、うん、大丈夫……うん、約束するよ。なのはが大人になるまで私は待つ。だからなのはも待ってて、私が君を攫うその時を」
「……うん! ……にゃはは、なんかプロポーズみたい……」
「ぷろぽー……ふ、いいよ。うん、その方がしっくりくるかも。じゃあ将来なのはは私のお嫁さんになるんだね」
「ふぇぇ!? はぅ、ぅぅ……」
「なのは、返事は?」
「うぅ、ふぇ、フェイトちゃんの意地悪……うん、なりたいな……いつか、フェイトちゃんのお嫁さんになりたいよ……」
 
 
 
 
大人になったらその時は……よくある子供のたわい無い約束。
普通と違うのは私が大人で、私達がすでに想い合ってるということくらい。
長すぎる、というほどには長くないけど、けして短いわけでもない。
私達はこれからも一緒の時を過ごしながら、その時を待ち続ける。
……途中で愛想尽かされたらどうしようかと、ちょっと心配もあるけれど、それもきっと私達の想いの一部だ。
二人で一緒に歩いていこう、二人が望んだ未来を目指して。
私達なら、きっとそれが出来ると思うんだ。
 
 
 
 
 
 
……そう、思っていた。
一緒に今を歩けると、未来に辿りつけるのだと。

なのに現実はどこまでも残酷で、ちっぽけな両手は一つの約束も守れないのだと思い知る。

終わりを告げる足音が、すぐそこまで迫っていた。


 
 

...To be Continued
 


(あとがき?)
通販が委託期間終了ということで近々虎の穴から引き上げます〜。残りは即売会のみで〜。
ということでHPでもX〜月影〜の部分を解禁です。
こっから先はさすがに買っていただいた方々に悪いので解禁はたぶんないですが(^^;)
ED部分は一部だけそのうち解禁するかも?
Y、Zと真EDは同人誌特典、ということで。
え、バッドエンドや微妙なEDなんじゃないか、って?
はっはっはー…………どうだろうね(ぇ)
とりあえずいつものうちの小説を知ってる人はなんのかんの言うても安心して読める、はずw
ただの宣伝ですねありがとうございます(笑)
つーことで同人誌共々他の連載とかSSもまたよろしくね〜♪ 

2012/6/24


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