EndlessChain W〜血の洗礼〜 1
なのはとの同居生活が始まって数日、ぎこちないながらも、なんとか毎日会話をし、一緒に食事をとり眠りにつく日々が続いた。 ……先に言っておくがもちろん一緒のベッドではない。 未だ少し無理をしているように感じるなのはに、一緒に寝ようなどと言える訳もなく、 ましてやなのはをソファに寝かせるなんて論外もいいとこで、自然なのはがベッドに、私がソファに寝る形で落ち着いている。 ベッドが一つしか無いのだからこれはもう仕方がない。 だから断じて一緒に寝たいだなんて思ってはいない。 ……ほんとだよ!? 「……誰に言い訳してんのよ……」 ……などと数日ぶりに仕事の休みを取って我が家にやってきた親友、アリサ・バニングスはじとりとした目で私を見ると、わざとらしく溜息をついた。 人が連絡した時は『その子があんたのとこでいいって言うならそれでいいでしょ? 忙しいから切るわよ』 ……なんて言って相手にもしてくれなかったのに、自分の手が空いたら連絡も無しにやってくるとか、本当にアリサらしいと思う。 友達としてはもの凄くどうかと思うんだけど。 「ぐじゃぐじゃ心の声ダダ漏れで、うるさいわよフェイト」 「アリサが聞く耳持たないからだよ」 「必要無いから聞く気が無いのよ」 精一杯の私の抵抗にも、しれっとそんな風に言うアリサ。 基本的に頼りになる親友のはずなのに、私に対して言いたい放題なのも昔から変わらない。 「そうよ、だいたい今日はあんたのことなんてどうでもいいのよ。私はなのはに会いに来たんだから」 「ふぇっ!?」 「どうでもって……」 親友をどうでもいい扱いって酷くない? と、思うけど、アリサにとっては本当にどうでもいいらしく、興味は完全になのはの方に向いている。 一方急に名前で呼ばれたなのはは、突然のことに目を白黒させている。 名前は私が通信の時に教えたからだけど、それ以前に熱で気絶していたなのはが、アリサの事を覚えているはずがない。 「アリサよ、アリサ・バニングス。ふむ……顔色も良くなったし、体力も戻ったみたいね。元気になったみたいでよかったわ」 「あ、はい……お医者さんを手配してくれたって……」 「大したことじゃないわ、私は一緒に来ただけだもの」 「でも、ありがとうございました、バニングスさん……」 「アリサ」 「?」 「バニングスさんなんて、他人行儀な呼び方されると居心地が悪いわ、私もなのはって呼ぶから私のことはアリサって呼びなさい」 「ふぇ……ふぇぇっ!?」 お礼はいい、と言いつつ名前で呼ぶようにと強要するアリサ。 有無を言わせぬその迫力に、なのはと一緒に私もちょっと後退る。 なのはにしてみれば一歩どころか五、六歩くらいは逃げたかったかもしれないが、がっしりとアリサに肩を掴まれ、それ以上逃げるに逃げられない。 ……ていうか、何しっかりなのはに触れてるのかな、アリサ。 私なんて数日たって、やっと手が触れても逃げ出さなくなってくれたとこなのに……!! 「あ、あの……」 「……」 「……」 「……」 「う……アリサ、さん……」 「……」 「うぅ……アリサ……ちゃん……」 「……」 「ふ、ふぇぇ……こ、これ以上は無理ぃ〜……」 「……むぅ、まぁいいわ……それで許してあげましょう。あ、あと敬語禁止ね」 「ふにゅぅ〜……」 ガンつけという名の脅迫……もとい気迫と眼力で『アリサちゃん』を勝ち取ったアリサは、言葉とは裏腹に満足そうに頷いた。 おまけに続くアリサに対する敬語の禁止令。 逆らっても無駄と分かったのか、名前呼びですっかりエネルギーを使い果たしたなのはは、可愛い声をあげ、ぐったりした様子で頷いた。 「…………」 「……ん、何よフェイト、文句あるの?」 「…………別に……」 私の視線に気づいたアリサが、今度は私に視線を飛ばす。 それに対しそっぽを向いてやりすごす私。 ……文句があるかだって? あるに決まってるじゃないか、あんなに強引になのはにアリサちゃんだなんて名前を呼ばせて、 おまけに敬語禁止とか何それすっごい羨ましい。 「ま、これがあたしとあんたの好感度の違いってやつよ」 「ぐぅっ……!?」 それは違う、断じて違う。 絶対に好感度の差ではない……と思いたい。 たった今顔を合わせたばかりのアリサより、私の方が低い好感度だなんて信じたくは無い。 信じたくは無いけれど……色々思い当たる節がありすぎて泣きそうだ。 未だに名前で呼んでもらえない私の胸に、ぐさっと突き刺さった何かが激しく痛い。 ふふん、と勝ち誇った笑みを浮かべるアリサがこの上も無く憎たらしい。 「まぁでも、あたしは優しいから譲ってあげないこともないわ……なのは、あんたフェイトも名前で呼びなさい」 「っっっ!?」 「ふにゃっ!? あ、アリサちゃん!?」 それでもさすがは私の親友、さらっとなのはに私も名前で呼ばせようと水を向けた。 ごめんアリサ、やっぱり持つべきものは友達だよね。 なんでか既に馴染んでるアリサの名前はやっぱり憎たらしいと思うけど。 「止めてもいいわよ?」 「すみませんでした!」 ……口にしてないのになんで分かるのかな本当に。 「フェイトは分かりやす過ぎるのよ。あたしに隠し事をしたいならその緩んだ顔をなんとかするのね」 「……緩んでる?」 「そうね、五倍増しくらいで」 「……それもう別人だと思うんだけど……」 そう言いながら鏡を見たら本当に頬が緩んでた。 まだ名前を呼んでもらえた訳じゃないのにこれならば、呼んでもらえた瞬間この顔がどうなるのかちょっと怖い。 「まぁそんなわけだから、呼んであげなさいよ、なのは」 「〜〜〜〜っ」 「ここで呼ばなかったら、なのはは私の方が好きってことにして連れて帰るわよ?」 「ふぇっ!?」 「そんなっ!?」 驚くなのはと悲痛な声を上げる私にむかって、当然でしょ、なんて言うアリサ。 横暴だ、こんな暴君はきっとアリサを除いて他に無い。 こうなったら、何が何でもなのはに名前を呼んでもうしかない。 「な、なのは……」 ……それとも実はその方がいいとかだったらどうしよう……あ、ちょっと涙が。 「う、にゅぅ〜……」 「うぐ……なのは……」 「………………ふぇ……」 「っ!!」 「ふぇ……〜〜っ!!」 「が、頑張ってなのは!!」 そんな絶望的な気持ちでいた私の耳に届いた小さな声。 最初の二文字しか聞こえないけど、それはつまりなのはが私のことを選ぶということ。 一生懸命私の名前を呼ぼうとするなのはと、とにかく名前を呼んで欲しい私。 「ふぇ、ふぇ……!!」 「なのは!!」 「……なんなのあんた達……」 顔を真っ赤にして頑張るなのは。 可愛い、可愛いけど続きが聞きたい……!! 「……日が暮れる方が早いんじゃないの?」 「〜〜〜〜!!」 「なのはぁっ!!」 延々と続くこのやり取り。 白けたアリサの声もなんのその、今この瞬間だけは世界は私達二人の物だった。
...To be Continued
2011/8/10著
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