二人暮らし始めます






 
 
 
 
切欠はもう思い出せない。
いや、そもそも切欠なんてなかったのかもしれない。
だってそれぐらい自然に、気がついたら私はもう海未のことが好きだったから。
 
 
 
 
「海未」
「絵里!来てくれたんですか?」
 
 
 
 
不安はあったけれど多分圧倒的に海未を好きな気持ちの方が強かったんだと思う。
そう考えれば海未の卒業までほんとによく待てたわね、と自分で自分を褒めてあげたい。
 
 
 
 
「当たり前じゃない、海未達の卒業式なんだから」
「あ、ありがとうございます……その、忙しそうでしたので……」
 
 
 
 
だってほら、それでも来てくれて嬉しいです、なんて頬を染めるこの子を見てよ。
私の卒業から一年。
本当によく耐えたと思う。
希やにこと訪れた母校の卒業式は例によって穂乃果達らしく幕を閉じた。
そこはもう御想像にお任せするわと割愛するけど、私達の時以上に彼女達らしかったとだけ言っておく。
何よりこの時の私には、それよりもっと大事な勝負が目前に迫っていたし。
 
 
 
 
「あ、園田さーん、皆で写真撮るってよー」
「園田先輩!あ、あの、私達とも写真を……」
「ええ、もちろん」
 
 
 
 
だというのに海未ってば、あっちへいったりこっちへいったり。
あっちできゃー、こっちできゃー、と騒がれているのに本人は至って普通に皆が卒業を祝ってくれている、ないしは惜しんでくれているものだと思っているのだから本当にたちが悪い。
あの中にどれだけ貴女に好意を持っている人がいるか、ちゃんと分かってるの海未?
もちろんあえて自分の想いについては一方通行だなんて可能性からは目を逸らすけど。
だってそうでしょ?
いつまでも帰ってこない海未に焦れて、私が輪の中に割って入れば、嬉しそうに目を細めて海未が私の名前を呼んだのよ?
勘違いだなんて言わせない。
だから、ねぇ、海未の気持ちを聞かせて頂戴?
 
 
 
 
「絵里?……えっ……んむっ!?」
「っ……はっ……」
「なっ、え、何を……絵里!?」
「好きよ、海未」
「はっ!?」
「だから……私と一緒に暮らして頂戴?」
 
 
 
 
抱きしめて、キスをして、告白をして、鍵を渡す。
そんな一連の動作の間に海未の顔は赤くなり白くなりまた赤くなって最後には真っ赤になった。
もちろん可愛い表情のおまけつきで。
なにもかもが可愛くて可愛くて可愛くて。
カッコいいこの子は皆が知っているけれど、海未のこんな顔を引き出せるのは私以外にはきっといない。
自信過剰と言われてもそれはもう確信だった。
 
 
 
 
「……って、卒業式で何やらかしてんのよあんたはぁーっ!!」
 
 
 
 
結論から言えば私はそんな自信過剰この上無い賭けに勝った……のだけど、その前段階が酷かった。
スパコーンッ、とにこが振り回したらしい鞄が私の側頭部を直撃する。
そこからはもう冗談抜きに酷い有様だった。
さんざっぱらにこと真姫には怒られ希とことりからは白い目を向けられて、穂乃果と凛はパニックしてるし、ショックだったのは花陽にさえ目を逸らされたことだと思う。
亜里沙に至ってはなんと泣かれてしまってさすがにこれは痛かった。
でも泣きながらこんなお姉ちゃんでごめんなさいって海未に謝るとかどういうことなのねぇ亜里沙。
 
 
 
 
「何を考えてるんですか貴女は……」
 
 
 
 
そして二人きりになったらなったでまた怒られて、悪かったとは思うけどいい加減私だって心折れるわよー、と思い始めたころにようやく海未が言ってくれた。
 
 
 
 
「卒業旅行も始業後の準備もあるのに、引っ越しの準備までしなければいけなくなったじゃないですか……」
 
 
 
 
なんて、珍しくぶっきらぼうに。
そんなに赤い横顔じゃ、照れ隠しにもならないのに。
 
 
 
 
「じゃあ……やめる?」
「えっ……」
 
 
 
 
そう言えば、途端に揺れる琥珀の瞳。
こみ上げる愛しさに伸ばしそうになる手を堪えてじっとその目を覗きこむ。
片方だけじゃだめだから。
海未からも望んでくれなきゃ、意味がない。
 
 
 
 
「海未」
「っ……」
「ねぇ、どっち?」
 
 
 
 
無理強いはしたくなかった。
だからといって手放す気はもちろんないけど。
ちゃんと言ってほしいのよ、私だって女だもの。
 
 
 
 
「ぅ……ぁ……」
「うん」
「っ……き、です……」
「海未」
「……絵里が、好き、です……」
 
 
 
 
だから、一緒がいい、です。
ぎゅぅっ、と白くなるくらいに両の拳を握って海未が伝えてくれる。
仕掛けたのは私。
先に動いたのも私。
なのに先に泣きそうになってるのも私だなんて、カッコつかないにも程がある。
でもいいの。
その先に貴女との日々が待っているなら悪くない。
 
 
 
 
「海未」
「はい」
「私、自分で言うのもなんだけど手がかかるわよ」
「平気です、多分、私もそう、ですから」
「嫉妬深いし」
「それも、まぁ」
「あと四六時中触れてたいのだけど」
「自重してください」
「無理よ」
「絵里」
「嫌?」
「……その聞き方はずるいです、絵里」
「ずるくてもいいわ、だって貴女に触れていたいもの」
 
 
 
 
言うが早いか海未の腕を引いて抱きしめた。
されるがままの可愛い私の兎さん。
それでも頬も耳も身体もどこもかしくもほんのりと赤く染めているくせに、きゅっと服の裾を掴んでくる。
捕まえたのか捕まったのか、多分きっと両方ね。
最初から逃げられっこないのよ、私も貴女も。
 
 
 
 
「海未」
「絵里」
「結婚して」
「そ、それはまだ早いです!?」
「まだってことはいつかはいいってことよね」
「あぅ……」
 
 
 
 
真っ赤なお顔を私の胸に埋めてしまった海未にくすくす笑ってもっとぎゅっと抱きしめた。
未来は未定。
先のことは分からない。
さぁだから始めましょう?
私と貴女のこれからを。
私達のすべてはまだ始まったばかりなんだから。


...Fin


あとがき(言い訳)

9月の僕ラブ5新刊……のネタにしようかと思って書いたけどなんか違うなぁーとボツになったものそのいくつ目か。
ざーっと書いてはみたけどなんとなくうちの作風ではない気がしてボツったので公開してみた。
あちこちにありそうなタイトルから始めましたになり続いてます、と重ねる予定だったけど無理ですたw
もうちょい優しいふわふわした感じのものが書きたいなー、なので実際の新刊は多分そういう方向になる予定。
スクフェスの絵里さんイベの覚醒ストーリーが相手はどう見ても園田ぁー!だったので、それっぽいパロ書きたいなーと思ってる。

あ、そんなわけで今さらですが夏コミお疲れさまでした♪
ぐったり燃え尽きててやっと動き出しましたキッドです(苦笑)
とはいえ9月僕ラブ5、10月百合フェス、11月がリリマジと僕ラブ6、12月は冬コミとまだまだ原稿のデスマーチは続きます。
作戦は命を大事にで頑張ります……うん、頑張るw

2014/9/7著


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