ごめんなさいも愛してますも






 
 
 
 
ぱたん、と読んでいた本を閉じた。
こぼれ落ちるのは感嘆のため息。
心は満足感に占められている。
やはり本は良い。
百聞は一見に如かず、などと言われたりもするがだからと言って書き物が劣るということではない。
己が知らない世界、体験することのない出来事、本来であれば触れることすらないそれらはただの空想だと分かっていても心が踊った。
否、ただの空想ではないのだろう。
 
 
作り手にとって物語とはただの字の羅列ではない。
 
 
そこで息をする者達がいて、そこで色付く世界があり、ありとあらゆるものが生きている。
だからこそ文字に過ぎないそれらがこんなにも生き生きと躍動しているのだろう。
形は違うが素人の自分でさえ、詩を書く時に一つ一つの文字に確かな息吹を感じることがあるのだから、それを生業としている者にとっては当たり前のことかもしれない。
これが穂乃果あたりなら漫画の方がいいよぉーと言うのかもしれないが。
……まぁ根本は一緒ですよね、きっと。
誰にともなく苦笑して本を閉じ、丁寧に目の前のテーブルに置いた。
 
 
そしてようやく目に入ったのは、随分と汗をかいてしまった麦茶のグラスと眇められた空色の瞳。
不機嫌、をゆうに通り越したそれに気がつきひくっと頬が引き攣った。
にっこりと微笑む。
金と空色のコントラストがこれ程まで美しく、そしてこれ程までに恐ろしいと本当の意味で知っているのはきっと私だけなのだろう。
これも幸せの一つの形といえる。
あぁやっぱり随分と麦茶が温くなってしまっていますね。
ようやく手をつけた麦茶をごくりと飲み込みながら現実逃避をするくらいには、笑みの一欠片も無いアイスブルーが怖かった。
 
 
 
 
「……」
「……えっ、と、これは、ですね、その……」
「……ねぇ、海未?」
「はい……」
「あそこを見てくれる?」
「……時計ですね」
「何時間経ったのかしら?」
「……二時間、です」
「私達がこの部屋に入ったのは何時間前だったかしら?」
「……二時間前、です……」
 
 
 
 
にこにこと形だけの笑みに一つ一つの言葉を返せば比例するようにアイスブルーがメラメラと燃え上がる。
赤い炎が猛り狂う瞳にアイスブルーが溶けてしまわないだろうかと、明後日な心配をするくらい私は危機的な状況にあるようだ。
本が悪いんですよ、本が。
……などと言えるような性格を私がしているはずもなくだらだらと冷や汗だけが流れ落ちる。
珍しくμ’sの練習も弓道部の練習も無かった学校帰り。
これまた生徒会の仕事が一段落していた絵里の、帰りにうちに寄っていかないか、という提案に一も二もなく頷いたのが二時間と少し前。
その帰り道にうっかり贔屓の作者の新刊を購入してしまったのがその少し後。
更に適当に座っててと絵里の部屋に通され新刊の封を開けてしまったのが、今からちょうど二時間前。
出された麦茶を持って絵里がいつ戻ったのか記憶にすらない。
……本は魔物だ。
メデューサの邪眼もかくやというアイスブルーの方が余程魔性的な美しさと凶悪さかもしれないけれど。
とにかく言い訳の余地も無い。
 
 
 
 
「……本当に申し訳ありません……」
「……そりゃあね、海未の趣味が読書なのは知っているけど、一度どっかいっちゃうとキリがいいところまで帰ってこないことも知ってるけど」
「はい……」
「だって海未だし、鈍感だし、タラシだし、朴念仁だって知ってるけどね」
 
 
 
 
私だって怒るし拗ねるし寂しいのよ……?
……と、そう続けられてしまえば尚更首を垂れるしかない。
もう本当に全面的に私が悪い。
いそいそと麦茶片手に部屋に戻ればそこから二時間、見向きもせずに絵里に……恋人に放置されたらさすがに私だってかなり凹む。
刃物があれば今すぐ自分の腹を捌きたいくらいだ。
 
 
 
 
「掃除が大変だからやめて」
「……はい……」
 
 
 
 
にべもない。
見れば先ほどまで燃え上がっていたはずのアイスブルーはいつの間にか水気が増えて揺れている。
きゅっと噛まれた唇は些細なことで(いや今回のは些細ではない気がするけど)揺れてしまう自分への嫌悪がありありと表れていて。
堪らず腕をとって引き寄せて、離すまいと抱き締めた。
 
 
 
 
「……海未のばか」
「はい……」
「……ほんとばか」
「返す言葉もありません……」
 
 
 
 
ぐりぐりと肩に押し付けられる頭をかき抱く。
もう片方の手で背中をさすれば嗚咽混じりの吐息に目眩がした。
ちょっとしたことで揺らいでしまうのは恋をしている特権だから。
自嘲気味に言われた言葉に甘えてばかりの自分を心底殴り飛ばしたい。
けれど、後悔してばかりもいられない。
 
 
 
 
「ねぇ、海未……」
「絵里」
「……愛して?」
 
 
 
 
そんな言葉を言わせてしまった自分のへの怒りも後悔も反省も。
全部全部後回し。
絵里の不安を払えるのは自分だけ。
噛み付くような勢いで唇を奪って抱き締める腕に力を込めた。
疑う余地もないくらい私の全部で貴女を愛していると伝えよう。


...Fin


あとがき(言い訳)

短いえりうみ。
園田さんにはやらかし癖があると思うの。
いや、夜本を読み始めて気がついたら朝でお外で雀が鳴いてたとかおまえだろと言われそうですが。
本は魔物ですw
うちみたいに二次創作であってもそこに彼女達はいると思うのですよ。
紙一枚、画面一枚隔てた向こう側の世界がそこにはあるというか。
そしてうちの子達はうちにしかいないという。
だからなるべくどんな作品でも大事に書き出している…つもりw
雑い時は自分で後で凹みます(苦笑

2014/8/7著


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