CherryBlossomサンプル






 
 
 
 

大学生の休みは長い。
冬休みはそれほどじゃないけど、夏と春は丸々二ヶ月以上なんていうのもざらにある。
まぁわざわざ捗らない時期に勉強したところで効率面でよくないし、こうしてだらだら過ごせる身としては文句などあるはずもない。
そう、あるはずもないのだ、本来ならば。

 


「……暇だわ」

 


ぼそり、と呟いた言葉はそのまま誰に受け取られることもなく、見上げた天井へと消えていく。
そこに同居人の姿はない。
どうしてこうなった、と唸ってみても私が悪いわけでも彼女――海未が悪いわけでもないのだから意味がない。
大学二年の春休み、半年ほど前の秋を過ぎたあたりから付き合い始めた海未とルームシェア……という名の同居を始めたのが少し前。
元々お互い近くにいたし行き来していたからそれほど日常に違いはないのだけれど、それはそれ、これはこれ。
友人として食事をし寝泊りをしていたのから、恋人として過ごすようになり、ついには同棲にたどり着いたわけでして、これではしゃぐなと言われても無理よ無理無理絶対無理と私は自信を持って言えると思う。
だってベット、何よりベット。
シングルでくっついて眠るのも好きだったけど念願のダブルベットになったのだ。

 


『本当にこれにするんですか……?』

 


と、家具売り場で顔を真っ赤にしていた兎さんが可愛くて、届いたばかりのベッドにくっついてダイブして怒られたことは割と記憶に新しい。
二人揃って初心者マークをつけた恋人同士なのだけど、それでもお付き合いを始めて早半年、もう半年、そろそろお風呂とか一緒に入ったりしたいわよと思う私に比べて、相変わらず海未は清々しいくらいに真っ白で、あの純粋さはどこからくるのかとたまに悩む。
けして私が欲まみれなわけではない、と思う、思いたい。
なのにふとした時に真っ直ぐに私に想いを伝えてくれたりだとかさりげなくサポートしてくれたりとか、カッコいいところもさらりと見せてくれるのだから本当に海未はずるい。
そう言ったらその言葉そのままお返しします、と言われたりもしたけれど。
まぁそんな感じで私と海未の生活は順調といえば順調だった。
残念ながら、一昨日から海未は不在なのだけど。

「……海未ー、海未ー、海未ぃ〜……」

呼んでも海未が帰ってくるわけじゃない。
そう分かっていても漏れてしまうのはやっぱり寂しいからだろう。
たった四日でしょ?と小さい親友には言われたけど、よくよく考えてみれば高校時代より今の方が実質一緒にいるわけで、しかも明確に好意を自覚していなかった頃と好きに溢れている今とではどちらがより堪えるかなんて比べるまでもなく圧倒的に今だった。
塾講師のバイトも終わって学校が始まるまで二人でゆっくり過ごせると思っていたのに……!

 


『あの、すみません……一度、実家に……』

 


と言われてしまえばもう仕方がない。
日帰りでいいじゃない、というわけにもいかず泣く泣く海未を見送った。
いっそついていけばよかったと今は本当に後悔している。
さすがにまだ海未さんをくださいとはいえないけど、普通に泊まりに行く分にはきっとそんなに問題なかったはずなのだし。
自分の決断力のなさが恨めしい。
……次はついて行きましょう、うん。

 


「後は……海未のいない日の過ごし方について何か考えないとよね……」

 


悲しいかな今の状態はどう見てもダメな人でしかない。
自分でも想定外。
ちょっとショック。
いや違うのよ、これはお休みに備えて用事を色々と先に片づけてしまっていたからやることがないだけっていうのもあるよ本当に。

 


「あー……あ、海未だ」

 


もう海未が帰ってくるまでこうしてようかしらとごろごろとしていると、ぽーんと画面に通知が浮かび上がる。
饒舌な方ではないけれど、なんだかんだで小まめに海未は連絡をしてくれる。
離れている間は実家でのこととかその日何をしたのかとか、それから後は主に私の心配、とか。
今日も一言『ちゃんと起きてご飯食べましたか、絵里?』と送られてきていて一瞬うっと反応に詰まる。
さらに続けてそろそろ牛乳が切れる頃でしょうからちゃんと買いに行ってくださいねとか、晴れてるうちに洗濯をしてくださいねとか通知が届くたびに綴られていて、普通に心配されていた。
起きてません、食べてません。確かに牛乳そろそろ切れそう、洗濯は昨日サボりましたごめんなさい。
言ったら怒るから言わないけれど、なんかその辺も含めて諸々筒抜けていそうで怖い。
っていうかこれもうどっかにカメラとか仕掛けられてないわよね、いや海未がそんなことするはずないけどバレバレすぎてどうしよう。
自分に向けられるもの以外には割と敏感な海未らしいといえば海未らしいのだけれども。

 


「えーと、心配しなくても大丈夫よ、と……」

 


ぽちぽちと返信をしながら起き上ってベッド周りを片づけて、キッチンに移動してのそのそと朝食、というかブランチかしらね、の準備をする。
その途端くぅと鳴るお腹の現金さ笑ってしまった。
海未がいないと空腹も気にならないとか、もう一人暮らしにはとても戻れそうにない。

 


「違う意味で実家に帰られないようにしなくちゃね」

 


前ににこにもからかわれたけど、三行半とか欲しくない。
あの子の場合本当に書きそうだし。

 


「後は……海未が帰ってきたらなにしようかしら?」

 


今日は海未が出かけてから三日目だ。
予定では明後日には帰ってくる。
当初の計画通り二人でのんびり過ごす、のもいいかなって思うんだけど、海未はどこか行きたかったりするのだろうか?
山、って返されたらちょっと困る。
いえ、頑張れる範囲なら頑張るけど、ほら、要求のレベルが高いっていうか。
そんな怖さもちょっと抱きつつ、それでも聞かないわけにはいかないわよねと送信して待つこと五分。
返ってきた返信に危うくスマホを落としかけた。
綴られていたのは短い言葉。

 


『……絵里と一緒にいたいです』

 


スタンプも絵文字もないシンプルなそれに五分もかけた辺り、海未がどんな顔でそれを打ったのか、想像するのはそう難しいことじゃない。
きっと頬を染めてはにかんでいるに違いない。
どこに、って聞いたのに一緒かどうかの方が大事ですと言わんばかりのそれに段々と頬が緩み始める。
可愛い。
返信しない私に焦れて恥ずかしい事を送ってしまったとかそのうちもっと赤くなるのだろう。
見て、うちの子可愛いんですけどと叫びたい。
だって可愛い、ほんとに可愛い。

 


「まったく……一緒なのは当たり前でしょ? もう……」

 


言ってる傍から上がった口角は隠しようがなくて鏡の中の緩んだ自分に緩みすぎよと苦笑した。

 


「……どっか海未が喜びそうな所に連れて行ってあげたいわね……」

 


お家でごろごろ、も捨て難いけど、せっかく外に出る気になったのだからプランを練ってみましょうか。
そうと決まればまずは情報収集よ、とブランチのフレンチトーストを手早くお腹に放り込み外行きの服に着替えると、私はお財布と鍵だけ持ってお家から飛び出した。

 

   ◇

 

「……と、言うわけで何かいい案ないかしら?」
「カエレ」

 


そしてもちろん向かった先はそこそこ近所と言える親友達が暮らすアパートで、事情を離し終えた私に対するにこの言葉がそれだった。
ある意味予想通りなんだけどやっぱり親友に対する言葉としてそれは結構酷いと思う。
いえ素直に帰る気なんて最初から私も無いけれど。

 


「嫌よ、一緒に何か考えて」
「あんたね、連絡も無しに人ん家に押しかけといてそれなわけ?」
「だって海未が可愛いから」
「沸いてんじゃないわよ」

 


けっと心底嫌そうな顔をしてずずずとお茶を啜るにこ。
でも私は知っている。
そんなこと言いつつもなんだかんだと海未や私の為に考えてくれていることを。
指摘したら怒るどころか本当に追い出されかねないから口に出すなんて無駄なことはしないけど、ちらりと視線を向けた先の希が笑っていることを見れば間違いない。
ぶっきらぼうだけど根が優しいのよねにこは。

 


「……つったってこの時期どこも混んでるでしょうよ」
「そうなのよねぇ……」

 


渋い顔のままそれでも勘案が終わったのかそう言うにこに私も分かってはいるのよと苦笑する。
春休みの最初の方なら休みなのは大学生くらいなものだからそこそこすいてる所もあったと思うけど、春休みももう後半、というか終盤に入っているこの時期は、大体学生は皆休みである。
むしろ学校が始まる前にと気合入れて遊んでいる。
人混みがあまり得意ではない海未を連れて突入したいとはちょっと、あまり、思えない。
私と海未が連れだってショッピングとか、普段でも周りの目がうるさいし。

 


「ナチュラルに自慢すんのやめてくれない?」
「別にそういうつもりじゃないけど……」
「希だってねぇー待ち合わせ場所じゃ馬鹿な男共が鼻の下伸ばして群がってくるし」
「にこっち」
「女は占ってとかきゃーきゃー言いながら寄ってくるし」
「にこっち」
「下着売り場では羨望と嫉妬の視線が」
「にこっち」
「何よ」
「アホ」
「なんでよ」
「知らんよもう!」

 


とかなんとか、ナチュラルに自慢、どころか惚気山盛りで返された。
照れてる希はとても可愛らしいですよ、とか海未がこの間言ってたけどそう思う。
目の前の煎茶が甘茶になった気分だ。
今なら海未の好きなお抹茶を一緒に飲めると思う。

 


「……それで、何かいい案ないかしら?」
「何事も無かったかの様に戻したわね……まぁいいけど」
「そうやねぇ……今の時期やったらお花見とか?」
「それめちゃくちゃ混まない?」
「場所と時間によるんやない?」
「有名どころは微妙よね」
「桜より人間がうざいわね」
「騒ぎたいわけでもお酒が飲みたいわけでもないしね」
「ウォッカだのブランデーだのワインだのぱかぱか空ける奴がそれを言うの……?」


 


あとがき(言い訳)

生きてますごきげんよう(・∀・)ノ
がっつり更新滞ってますが生命は維持しております(笑)
海未ちゃんの誕生日イベントも終わって早二ヶ月とか早すぎてやばいですねあばばば。
そんなこんなで明日の僕ラブ8にて新刊出ますのでお知らせです♪
内容はえりうみ+のぞにこなペラい本でございますw20pで200円。
他ラ!の頒布物は看板に載せたのでupした看板の方をご覧になっていただければとー☆
てことで本文より丸っと四ページぶった切りにてサンプル置いておきます(笑)
「ライ32」にてもへーっと頒布してると思うのでよろしくお願い致しますー☆

2015/5/16著


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