それは嵐の様に突然で






 
 
 
 
「不覚でしたね……」




薄暗い船倉の中で息をつく。
多少なりとも武道の心得はあるが、残念ながら今それは役に立ちそうにない。
こういうことにはどちらかと言うと私より騒がしい幼馴染の方が余程縁がありそうなのに。
『海未ちゃんってばどうしてそううっかりさんなの!?』とかいう声が聞こえてきそうだ。
常であれば貴女には言われたくありませんよ!と反論するとこなのですが……
今回はまったくもってその通りなので代わりに溜息をつくしかありません。




「どうにか脱出したいとこですが……」




どうしたものかと首をひねる。
ここから抜け出したところで、どうも船は出港しているらしく足元が揺れている。
港にあるうちなら逃げ出してしまえばそれですむけど、洋上ではそうもいかない。




「小船を拝借、しても近くに陸地がなければそれまでですしね……」




風、波、天候、ちょっとしたことが命取りになる海に小船で出ようなど自殺行為も甚だしい。
遠泳には自信があるけど、一つしかない命で試してみる気にはなれない。
……そもそもなぜこんなことになったのか。




「情けは人の為ならず、とは言いますが……」




必ずしも善意が自分に返ってくるわけではないのもまた然り。
まぁ元から期待していたわけではありませんが……。
それでもあんまりな仕打ちと言えるのではないでしょうか?
すぐ帰りますよ、と言った私に向けて『最近物騒だから気をつけてね海未ちゃん……』と、
送り出してくれたもう一人の幼馴染の不安が的中してしまったらしい。
きっかけは実に些細なことだった。
港町にはよくあること、すなわち船乗りに絡まれていた女性を助けたのが始まりだった。
穏便にお引き取りはいただけなくて仕方なしに気絶させてきたのだけれど、
その後お礼にとその女性が切り盛りするお店で食事とお酒を頂いて……そこから先の記憶がない。
目が覚めた時にはこの薄暗い船倉で荷物と一緒に運ばれていた。
港で目にした占い師に女難の相が出とるよ〜、と言われたがまさにその通りだと思う。




「……まぁ今のところ五体無事ではありますし……」




愛刀は恐らくどこかに保管されてしまっているのだろうけど、幸いにしてそれ以外に変わったところはない。
怪我もなければ他に盗られた物も無いのだから、私の持ち物が目的だったわけではないのだろう。
とすれば必然的にその目的は限られてくる。




「身代金、ですかね……」




私自身の価値、といえばやはり最初に考えられるのは園田の家の者ということだろうか。
売り飛ばすのであればもう少し高く売れそうな人間を選ぶでしょうしね。




「しばらくは様子見ですね……」




ならばすぐにどうこうということはないはず、と判断して近くにあった樽を椅子代わりに腰を下ろした。
可能ならばどこかの港に寄港したのを狙って抜け出すのがベストだろう。
それまでの間水や食料が供給されればの話だけれど。




「家に迷惑をかけるわけにもいきませんし……っっと!?」




長期戦を覚悟したその時、ドンッ!という音と共に船が大きく揺れた。
危うく樽ごとひっくり返るのを飛び降りてなんとか回避する。
続けてさらに二回、音と衝撃。
二つ目は命中したのか、船体が砕ける音も聞こえてきた。
命中、つまり砲撃、だ。




「これはまた……とことん間が悪いようですね私は……」




恐らく何者かの船と戦闘になったのだろう。
先に撃たれたことを考えれば襲われたということだろうか。
ならば海賊……いや、この船自体が海賊船であるならどこかの軍ということもありうるか。




「接舷されましたか……?」




そうこうしているうちに上が随分と騒がしくなる。
怒号と足音、剣と剣が打ち合わされる金属音。
途端丸腰であることが心許なくなるが、無い物は仕方がない。
素手でも戦えないことはないし、相手によっては品物扱いの私の状況を理解してくれるはず。
覚悟して上の戦いが収まるのをじっと待つ。
どれくらいそうしていただろう、やがて戦いの音は消え、代わりに勝ち鬨の声。
一体どちらが勝ったのか?
それすらも分からないまま待ち続ける私の前でようやく船倉の扉が開かれる。




「……!?」




照らされる室内。
通路からの逆光で扉を開けた人物はよく見えないが、
私の存在に少なからず驚いた様で僅かに息をのんだのが分かった。
光に浮かぶ輪郭は女性、だろうか?




「……この船の船員、ではなさそうね……」
「ええまぁ……多分荷だと思います……」
「多分?」
「船に乗った記憶が無いもので」




私の返答になるほど、と苦笑したらしいその人は今のやり取りだけで概ね私の状況を把握したようだった。
話した感じでは恐らくこの人は襲撃をかけてきた船の人なのだろう。
であれば、まずはそちらに話をつけなければならない。
さすがに海上にぽい捨てはされないと思いたいが、船長の判断次第だろう。




「ですのでそちらの船長と話をさせていただきたいのですが……」
「保護してほしい、ということかしら?」
「可能であるなら」
「そう、でも残念ね。私達は軍の艦隊じゃなくて……海賊だから。欲しい物は奪うし、見返りなしでは動かないわ」




こんな風に、と伸ばされた手が私を掴んで引き寄せる。
急なことにバランスを崩した私を受け止めて頭上で笑うその人。
指先が私の頬を撫でて顎を掬い上げ上向かされる。
その時初めて、私はこの人の顔をはっきり見た。
整った美しい顔立ち、輝く黄金の髪、宝石のような空色の瞳。
人種からして違うその人は今まで目にしたどんなものよりも美しかった。




「一度既に攫われているのだから……もう一度攫われるくらい、別にいいわよね?」
「では、貴女が……」
「船長、ということになるわね貴女がお探しの」




ぱちりと片目をつぶってみせて、その人は楽しげに笑った。
こんなに綺麗な人が海賊船の船長だなんてどういう経緯でそうなったのか。
興味は尽きないがどうやら私は引き続き囚われの身になるらしい。




「荷なんでしょう?」
「荷ですからね……」




仕方がありませんと首を振るとその人は嬉しそうに目を細めた。
その様子に自然と私も笑みがこぼれる。
どうしてでしょうね、状況が変わらず……いえ、むしろ悪化したかもしれないのに、それをあまり残念と思わないのは。
目の前のこの人から悪意を感じないせいなのか、美しいこの人にただ見惚れているだけなのか。




「私は絵里、絢瀬絵里よ。貴女は?」
「……園田海未と申します」
「海未……いい名前ね」




そして囁いた。
貴女は私の物よ、と。




「さあ行きましょう、海未」




そして私は……自分から貴女の手を取った。


...Fin


あとがき(言い訳)

原稿明けは二日間燃え尽きてたキッドですごきげんよう。
ええはい、燃え尽きつつコーエーさんの大航海時代Xを開始と同時に軽く廃人プレイしてました(笑)
新作!しかもブラウザ!と狂喜乱舞したのは言うまでもありません。
シリーズは一応VとOnline以外はやってましてよ俗に言うゲーマーの分類らしいですw
てゆかしょっぱなから5000円だけど突っ込んでそこそこ入り浸ってるのに、
既に航海士カンストしてる人達とかどんだけ時間とお金かけてるのと言いたい。
本物の廃人には遠く及びません、いやそこまでは行きたくないけれど生活に支障が出る(苦笑)
ということでせっかくなのでと、大航海時代の世界観パロなお話です☆
航海士と海賊って言うのもいいですよね(笑)

2014/3/29著


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