理由なんて






 
 
 
 
なんで?
と言われたら、
さぁ?
と答える他ない。
だって本当に分からないんだからしょうがない。
むしろこっちが聞きたい。
教えてほしい。

――人を好きになるのに理由なんてないって本当だ。
 
 
 
 
「……ねぇ、ねぇちょっと……聞いてるの、海未ってば?」
「……あぁ、すみません、少しぼーっとしていました」
「もぅ……具合悪い、とかじゃないわよね?」
「はい、大丈夫です」
 
 
 
 
ご心配をおかけしてすみません、と頭を下げればならいいのだけど、と引き下がる。
納得してません、と言いたげな顔に苦笑しかけて押しとどめる。
きっと不機嫌に、いえ拗ねてしまうでしょうから。
何笑ってるのよと怒る顔も嫌いではないのだけれど。
 
 
 
 
「……最近ぼーっとしてることが多いのね。疲れてるんじゃないの?」
「どうでしょう……あまり寝れてはいないかもしれませんが……」
「作詞?」
「いえ、それは……まぁそれもありますが」
「……やっぱり一人に集中するのは負担よね」
「……そうでもないですよ。……救われることも、ありますから」
 
 
 
 
稽古も練習も作詞も、いつものこと。
書きなぐった言葉があって、吐き出した想いがあって、それが何らかの形で人に届く。
それはなんて醜くて素敵なことなんだろう。
言葉に乗った欠片達。
全部じゃなくていい、全部なんて自分でもわからない。
それでもここに、私の、私だけの想いが、痛みがある。
ありふれていて、みっともなくて、悔しくて。
どうして人には心なんてあるのだろう。
問いかけても答えはない、応えもない。
あるのは鏡の中の自分だけ、どんな顔をしてるかさえ見えないのに。
焼けるような痛みが確かにそこにあり続ける。
 
 
 
 
「……何か、悩みでもあるの?」
「……悩み、ではないですね」
「じゃあ、何……?」
「……しいて言うなら」
「言うなら?」
「……胃痛でしょうか?」
「……って、それ普通に具合が悪いんじゃない!」
「悪くないですよ?」
「悪いわよ!」
 
 
 
 
くわっ、と感情に合わせて揺れる金糸に目を細める。
美しいと思う。
容姿も、仕草も、何もかも。
すべてが、私と違って、どうしようもなく惹かれる。
胸を焦がす、なんて、そんな表現はただの比喩だと思っていたのに。
 
 
 
 
「胃薬なんてあったかしら……」
「大丈夫ですよ」
「何が」
「心理的なものですから」
「ストレス性胃炎って知ってる海未?今度真姫にレクチャーしてもらうといいわ」
 
 
 
 
じろりとジト目交じりで睨まれて今度こそ苦笑がこぼれる。
そんな私に器用に片眉だけまた吊り上げてお怒りと心配をないまぜにするこの人は本当に綺麗な人だ。
心配が嬉しい。
気遣いが痛い。
触れたい、触れたくない。
触らないで。
簡単に悲鳴をあげる心は届かない。
どこにも、行けやしない。
 
 
 
 
「あったわ、ほら飲みなさい」
「目薬に頭痛薬に……これはビタミン剤ですか?我が部の救急箱は万全ですね……」
「ええ、さすがことりだわ。うちの部は平気で無茶をする人が多いから」
「絵里のことですか?」
「貴女のことよ!」
 
 
 
 
さっさと飲む!と押しつけられた胃薬をしぶしぶ受け取る。
錠剤が三つなんて結構きついです、穂乃果みたいにゼリーがなきゃやだ!なんて言ったりはしませんが。
 
 
 
 
「……どう?」
「……そんなにすぐは効きませんよ?」
「わ、分かってるわよ……」
 
 
 
 
揺れる瞳が心配ですと言っていって、貴女らしさにまた苦笑して。
一緒にせり上がる熱に瞼を覆った。
零してはいけない。
溢れてはいけない。
絢瀬絵里に見せてはいけない。
 
 
 
 
「……海未?」
「……やはり、寝不足なのかもしれませんね」
「じゃあ寝なさい」
「打合せは」
「起きたらしましょう」
「部室です」
「関係ないわ」
 
 
 
 
腕を引かれて、頭が膝の上に着地する。
強引ですね。
それが相手の為だと思うなら貴女は引かない。
だから私は気付かせない。
一つ一つが苦しいだなんて、そんなこと。
 
 
 
 
「……寝れそう?」
「……今のこれを皆に見られたら私は切腹します」
「死なないでよ」
「じゃあ起きます」
「許しません」
「寝かす気ありますか?」
「労わってるのよ」
 
 
 
 
逆効果です。
絵里の手が私の頭を撫でて髪を滑る。
幸せそうに微笑むから。
否が応にも瞳を閉じざるをえなくなった。
 
 
 
 
「おやすみなさい、海未」
 
 
 
 
足がしびれても知りませんよ、なんて、可愛げのない言葉さえ言えずに温もりに身を委ねる。
起きているのは期待などという身の程知らず。
眠れ。
眠れ。
奥底に。
痛みも想いも、何もかも。
 
 
――この想いの息の根を、貴女が止めるその日まで。


...Fin


あとがき(言い訳)

たぶん、なんだかんだ言ってちゃんと好きだったと思う。
少なくとも私は。
残っているのは相手も自分も傷つけて傷つけられた痛みと後悔だとしても。
それでも振り返って見つめた傷はやっぱり痛くて、ショックだったんだなぁと思う。
心なんて凍ってしまえばいい。
そう思っても気にかけてくれる人や声をかけてくれる人達に救われて、ぽかぽかしちゃって凍れない私は幸せでもあるんだと思う。
いつか、酷いこと言ってごめんと、嫌な対応してごめんと言えたらいい。
私も痛かったけど、きっとお互いに痛かったから。

……うん、何年たっても人を傷つけた後悔と傷つけられた痛みはなくならないものなんだね。

ということで色々放り投げてえりうみ書きました(何
私のお腹で渦巻くあれこれはたいていキャラの誰かが被害を受けます海未ちゃんごめんよ;
でも恋ができるのは羨ましい(ぇw
苦しくてもきっと悪いことじゃないです、好きだなーって。
実らなくても、ぐるぐるしてても、人を好きになれる人はきっと素敵です、その想いは素敵です。
醜いと思っていても辛くても、きっと多分君にとって大事なものです。

…最近はもっぱら二次元を愛してばかりな私が言うんだから間違いないw
それでもキッドは今日も皆のちょっとした心遣いのお陰で生きてます。これからもどうぞよろしく(>▽<*)ゞ

2014/5/17著


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