切欠なんてそんなもの2






 
 
 
 
「って、そこまでいったら普通はその後付き合うと思わない!?」
「そこはだって海未だもの」




それはそうなんだけど……と、私――西木野真姫はカフェのテーブルに突っ伏した。
よしよしと頭を撫でるエリーの手が心底鬱陶しい。




「ていうかエリー、大学ってこんなに早く終わるものなの?」
「あら、知らないの真姫。大学にはね、自主休講ってものがあるのよ」
「さぼりじゃない!?」
「自主休講、よ」




しれっと言ってのけるエリーは優雅に紅茶のカップを傾けた。
広がる紅茶の香りと周りの目を引く容姿と仕草。
それなのに言ってる内容は残念なことこの上ない。
昔、といっても生徒会長としての当初のエリーしか知らないけど、
堅物が服を着て歩いていたような昔のエリーは一体どこにいったのか。
μ'sに加入してからのエリーは随分と砕けた人間になっていた。
良くも悪くも。




「でもそういう理由だったのねー、さすが海未だわ」
「……言っておくけど、海未ちゃん嫌がってなかったからね」
「分かるわよそのくらい」




だって海未だもの、とこれまたお決まりの台詞で紅茶を嗜む。
それでもちょっぴり不服そうな様子に私もようやくテーブルから復帰した。
そもそも何だって放課後すぐに学校近くのカフェでエリーとお茶をすることになったのか。
それは当然……例の校内新聞のせいだった。




『真姫ぃぃーーっ!!』
『うぇっ、ちょ、エリーっ!?』
『どういうことなのこれは!?』
『ど、どうって、だから……ていうかどうしてそれを……』
『ずるいわっ!!』
『……はっ?』
『私も海未とツーショットで写りたい!』




そう言って盛大に悔しがった金髪美女の頭を問答無用ではり倒したのがつい三十分程前だった。
なんでも希がどこからか入手したらしいそれを見せられて、
エリーはあっさりと自主休講を決めると、高等部に駆けこんできたとそういうことらしかった。
そしてそのまま放課後だったのをいいことに学校近くのカフェに連れ込まれたのだ。
なんて無駄な行動力とは思うけど、意味分かんない、とはさすがに言えない。
逆の立場だったら私も同じことをしたと思うから。
いや、ここまで人の迷惑を顧みなかったかどうかは別にして。




「だって羨ましかったんだもの」
「PVの撮影でよくくっついてたじゃない……」
「それはそれ、よ」
「まぁ分かるけど……」
「うー、でもいいわねぇ……私ももう一年高校生やろうかしら?」
「やめてよめんどくさい」
「だって、海未ってば可愛いし」
「ただのへたれよ」
「カッコいいし」
「真剣な時だけね」
「甘やかしてくれるし」
「海未ちゃん優しいもの」
「やっぱり真姫だって好きなんじゃない!」
「そっちこそ!」




きぃーっ!とお互いに顔を突き合わせてみたところで事実なんだからしょうがない。
何よ、悪い?
へたれでも朴念仁でもかっこ悪くても好きなんだからしょうがないでしょ!?




「だいたい私がこんなに好きなのに海未ってばどうして気付かないのよ!」
「海未ちゃんだからに決まってるじゃない!」
「朴念仁!」
「へたれ!」
「「海未(ちゃん)のばかぁーっ!!」」




そしてぜーはーと二人揃って息をつく。
おかしいわね、声量には私もエリーも自信があるはずなのになんで息切れなんてするのよほんとに。
ううん、ドキドキしてるからだって分かってるけどそこはいいのよ見ないふり。
気にしてたらとても身体がもたないもの。




「……で、結局その後どうしたのかしら?」
「あぁ、そこに戻るのね……別に、騒がれたから二人で部室に逃げて終了、よ」
「らしいといえばらしいけど……」
「皆すぐにきちゃったし……」




それでも普通ならその短い時間で十分だと思わない?
皆の輪から抜け出して(逃げざるを得なくなった理由の半分は私のせいだけど)、
二人で部室まで逃げ込んで……抱えた腕はそのままに至近距離で目が合って。
いっそそこでキスの一つでもほんとにしちゃえばよかったかしら?
と今なら思わなくもないけれど、内心いっぱいいっぱいだった私に当然そんなことができるはずもなく、
ふわりと微笑んでくれた海未ちゃんに結局私も笑みを返して甘えるのが精一杯。
くすくすと二人でさっきの逃避行を思い返しているうちに凛と穂乃果が部室に突撃してきて、
甘い空気はあっという間に霧散してしまったのだから。




「グッジョブよ凛、穂乃果」
「ちっともグッジョブじゃないわよ!!」




どうしてあんた達はそう空気ってものが読めないよ!とまとめてはり倒したのは昨日のことだ。
なんだか昨日といい今日といい、人の頭をはたいてばかりね、私。
それもこれもあれも全部……




「海未ちゃんのせいなんだから!」
「……えと、あの……すみませ、ん……?」
「え……?」




くわっと叫んでみれば目の前のエリーは楽しそうに笑っていて、代わりになぜだか背中から声をかけられた。
すごく大好きで、でも今はあんまり聞きたくない、声。
……っていうか、タイミング悪過ぎでしょ!?




「はぁい、海未。遅いわよ?」
「……今日は弓道部の練習があるのですぐにはいけないと申し上げたはずですが」
「そうだったかしら?」
「はぁ……相変わらずですね、絵里」




困ったように眉を下げる海未ちゃんにひらひらと手を振って着席を促すエリー。
え、ていうかなによこれ。
いつの間に連絡なんてとったのよ。
海未ちゃんも困ってるというよりは嬉しそうだし何よそれ。




「真姫……?どうかしましたか?」
「っ!?べ、別になんでも……って、ちょ……!?」
「眉間に皺はよくありませんよ、美人なんだからもったいないです」
「な、によ、それ……」




理由までは分からなくても私の表情が翳ったのは気がついたのだろう。
海未ちゃんが私の頬を撫でて微笑んだ。
緩く弧を描く琥珀色に上がる熱。
顔が、熱い。
……ていうか近い、近すぎるのよっ!?




「……いいわねぇ……」
「っ、エリー!!」
「でもそういう真姫を見てるのも嫌いじゃないのよねぇ……」
「……ドMなの?」
「失礼ね」




でもそうとも言い切れないのかしら、なんて首を傾げるエリー。
そうよ、私なら誰かが海未ちゃんといちゃついてるだなんて絶対に見たくないもの。
……自分ならいいというわけでもないけれど、主に心臓とかに悪いから。
心底きょとんとしている海未ちゃんが憎らしい。




「海未は海未よねぇ……」
「まぁね、それが海未ちゃんだもの……」
「え、と……?」




はぁ……、と溜息をつく私とエリー。
そして何が何だか分からない、という顔をする海未ちゃん。
ねぇ海未ちゃん、どうしてこんなに私達に好かれてるのに気付かないのよ。
なんて思ったところで、結局この人が好きなのよね。
自分の胸の奥をよっぽど解剖してみたいくらいよ本当に。
……でもやられっぱなしは悔しいから。
頬に添えらたままの海未ちゃんの手に自分のそれを伸ばしてそれから――




「んっ……」
「あら?」
「っ!?ま、ままま真姫!?」
「……海未ちゃんが鈍感だから悪いのよ!」
「い、意味が分かりません!?」




真っ赤な顔で私の十八番を叫ぶ海未ちゃんにふいっとそっぽを向いて。
さっきと同じ様に掴んだままの手のひらに口づけた。
知ってる海未ちゃん?……掌への口づけの意味は『懇願』。
ねぇ早く気付いてよ、この手で私を掴まえてみせなさい?
ニヤリと笑って赤くなった頬はそのままに海未ちゃんの胸に飛び込んだ。


...Fin


あとがき(言い訳)

だから私はなのはの原稿締め切りが近いと(ry
こんにちはこんばんはごきげんよう、締め切りが近くなると逃避行動が顕著になるキッドです。
いや絶対あの後そのまま付き合うとかなさそうだなーだって海未ちゃんだし!
……とか思ってたら続きましたよ、そしてエリチカさんがまさかの参戦。
これはあれですね、誕生日ネタえりうみを書いてあげよう遅刻でゆっくり。
とか思ってるキッドのお尻を絵里さんが蹴っ飛ばしているんですね分かります。
いやむしろ同日誕生日のなのフェイ原稿兼UP用SSを書いてたはずなのに、なぜ西木野さんと絢瀬さんが浸食をををw
とりま一応こっちはうみまきシリーズなのでPixivでもえりうみタグはつけてない……あれ、続くの?これ?(ぇ

2014/3/18著


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