愛してるばんざーい






 
 
 
 
世界は優しくない。
夢だの希望だのなんて誰が言い出したものなのか。
敷かれたレール。
置いてきた何か。
たぶん夢とか希望とか、そんなものたち。
たくさんの物を与えられて。
不自由なんてなくて。
代わりに欲しいものが手に入らない。
不自由がないのが不自由だなんて贅沢ね。
酷く乾いてしまって。
ひび割れて息苦しくて。
それでも生きていくしかない。
 
 
世界は――
 
 
 
 
「いーですかまきー」
「……」
「まきはー、もっとじぶんにー、じしんをもつべきなんですよぉー」
 
 
 
 
――とてもとても、めんどくさい。
 
 
 
 
「だいたいですねぇー……きいてますかぁー?」
「ええ……」
 
 
 
 
不本意だけど。
今だけ耳が機能不全にならないかしらと思う。
曲が書けなくなるからずっとだと困るけど。
 
 
 
 
「えりー、まきがはんこうきですー」
「誰が反抗期よ」
「あら、それはいけないわね、お仕置きしないと」
「謂われがないのだけど」
「そーですよー、おしおきですよぉー」
「聞きなさい」
 
 
 
 
おしおきー、お仕置きね、と声を揃える群青と金色。
分かっているのにイラッとしてしまうのは私の不徳か。
悟りは一生開けそうにない。
 
 
 
 
「そもそもどうして海未ちゃんがへべれけになってるのよ」
「スピリチュアルかしら?」
「エリー?」
「だって希がくれたから」
「海未ちゃん泣くわよ?」
「泣いちゃうの?」
「ぅ?えり?」
「海未可愛い」
「分かったから海未ちゃん脱がすのやめて」
 
 
 
 
私がお風呂からあがってきた時にはもう海未ちゃんはこうだった。
発端は希が作った錠剤?らしい。
薬事法って知ってる希?
知ってるわよね、知っててやってるのよねもう副作用とか毒性が無ければなんでもいいけど。
 
 
 
 
「酔った気分になれる、だけらしいから平気じゃないかしら」
「そうよね、じゃあエリーも飲むわよね」
「間に合ってるわ」
「遠慮しなくていいじゃないノミナサイヨ」
「助けて海未、真姫がいじめるの!」
「ぅゅ?」
 
 
 
 
泣かすわよ。
 
 
 
 
「あのねぇ……」
「……まき」
「え?」
「……」
「ちょ、海未ちゃ、ちかっ……」
「……いじめはだめですよ?」
「……」
 
 
 
 
とろんとした目で真剣に放たれた言葉にピシッと固まる。
その海未ちゃんの後ろでぷーっと吹き出して笑い転げるエリー。
うん分かった、明日の朝は梅干しご飯と海苔尽くしにしてあげる。
 
 
 
 
「すみませんでした」
「分かればいいのよ」
「えり?」
「海未、真姫が私の嫌いな物食べさせようとするの!」
「分かってないじゃない!」
 
 
 
 
再度海未ちゃんに泣きつくエリー。
年上の威厳はどこにいったのよ。
最近はあってないようなものだけど。
むしろ以前にもましてフランクだしスキンシップが増えすぎだと思う。
特に海未ちゃんに対して。
 
 
 
 
「……」
「海未?」
「海未ちゃん?」
「……えり」
「え?う、み……?」
「……すききらいはいけません」
「……」
「……」
「……笑えば?」
「……ワラッテナイワヨ?」
 
 
 
 
だけど海未ちゃんには通じなかった。
へべれけだろうとなんだろうと海未ちゃんは海未ちゃんなのね。
落ち込んでるエリーには悪いけど自業自得なのでフォローのしようがない。
肩や頬がぴくぴくしたくらいは許してもらおう。

ともあれ。
 
 
 
 
「これじゃあ曲の相談どころじゃないわね……」
「そうね……まぁこれはこれでいいんじゃないかしら?」
「なんのための泊まりよ」
「親睦の為の、かしら?」
 
 
 
 
どう思う?
顎に指を添えて首を傾げる仕草で今まで何人落としてきたのか。
エリーの無自覚も相当なものよねと視線を海未ちゃんに逃避することでやり過ごす。
だいたいどうして疑問形で返すのよ、やっぱりエリーもめんどくさい。
 
 
 
 
「まきーまきー」
「はいはい、なぁに海未ちゃん?」
「すきですよ」
「……はい?」
「ちょっ」
 
 
 
 
私とエリーのやり取りをじっと見ていた海未ちゃんに袖を引かれて、
目線を合わせてみれば至近距離かららぶあろーしゅーとが飛んできた。
今のは絶対ひらがなだったわよね。
というか、え、今の私に向かって言ったの。
視界の端でエリーが慌ててるし。
むしろ私が機能してないし。
やり遂げた感のある満足気な顔してないで海未ちゃんお願い。
頭は止まったけど心臓壊れるから落ち着いて私。
 
 
 
 
「まきはわたしのことすきですか?」
「……」
 
 
 
 
むしろ心臓止まりたい。
 
 
 
 
「まき?」
「すっ……うぇぇ……」
「……ふぇ……」
「っ!?まっ……、好き、好きよ!大好きだから泣かないで海未ちゃん!?」
「……ほんとですか?」
「本当よ!」
「……えへへ、うれしいですまき」
 
 
 
 
いっそもう殺してお願い。
なんなの。
なんでこんなに凶悪なの海未ちゃん!?
というかエリーが白……くなってないわね?
 
 
 
 
「ごめん海未と真姫が可愛すぎて……」
「布団汚す前に出てってくれない?」
「あ、私も海未と真姫のこと好きよ?」
 
 
 
 
駄目だこいつも同類だった。
 
 
 
 
「返事は?」
「……海未ちゃんの方が好きよ」
「それは知ってるし私もだから」
「察しなさいよ」
「聞きたいのよ」
 
 
 
 
さあ、と両手を広げるエリー。
その無駄にきらきらつやつやした顔にとりあえず枕を投げつけた。
 
 
 
 
「好きよ」
「ありがとう」
「海未ちゃんは渡さないから」
「臨むところよ」
 
 
 
 
今日だけでどれだけ顔に血が使われたのかしら。
請求するわよ。
主に素面に戻った後の海未ちゃんに。
 
 
 
 
「海未ー海未ー、私のこと好き?」
「はい、好きです!」
 
 
 
 
むっ。
 
 
 
 
「ふふ、海未は可愛いわね」
「えりはすきといってくれないのですか?」
「……」
「……言えば?」
「結構くるものがあるわね、これ……」
「海未ちゃんだもの」
 
 
 
 
イライラとせめてもの仕返しに携帯の動画モードをつけた。
エリーもそこは赤くなるのね。
可愛いわ。
人の携帯奪ってソファーに投げつけたりしなかったら完璧なのに。
 
 
 
 
「撮るなら私の携帯で撮って」
「そこなの問題?」
 
 
 
 
相変わらずエリーのずれっぷりはよく分からない。
基本的には常識人の集まりのはずなのに。
撮らないわよ待ち受け海未ちゃんになんてさせないんだから。
 
 
 
 
「えり?」
「ごほん……好きよ海未、愛してるわ」
「絶対海未ちゃん記憶ないから」
「ないから言えるんじゃない」
「へたれ」
「真姫こそ」
 
 
 
 
そんなささやかな意地の張り合いをしながら夜は更けていく。
重く深い、夜の帳。
沈んでいくはずのそれは随分と暖かい。
 
 
 
 
「長期戦ね」
「長期戦よ」
「愛してるわ」
「私もよ」
 
 
 
 
溺れよう、どこまでも。
 
 
 
 
――世界は優しくない。
雨も降れば風も吹く。
嵐だってくるけれど。
それでも好きなものは仕方が無い。
愛してるばんざい。
ここでよかった、ここがよかったのよ、本当に。
だから。
 
 
 
 
「まだ当分付き合ってもらうから、覚悟しといてよね?」
 
 
 
 
何度でも立ちあがって生きてみようと思うのよ。
愛しい仲間達――せかい――私の。
これからもよろしく、ね。


...Fin


あとがき(言い訳)

真姫ちゃん誕生日おめでとう!(今さら!?
実はちゃんと4/19には書き上がってたのに個人的なバタバタでもっそい遅くなりましたごめんなさい。
ていうか更新めっちゃ滞ってますねすみません;
どうにもここのとこテンションの上がり下がりが激しくて、そうこうしてるうちに原稿〆で死んでたと言う;
どうにか入稿はしたけどぺらいしやっつけ感があるし誤字脱字さっそく見つけました、ごーめーんー;;
あ、そんなわけで5/18の僕ラブ4に出ますー、ライ05にぽけーっといるはず。
一応えりうみ本とうみまき本がそれぞれ20Pのが出ますー。
それぞれ「カチンときたのよ」と「切欠なんてそんなもの1」を収録し、それと別に書き下ろしをつけてます。
後日同人誌館にて詳細は更新しますー、まぁあまり変わりませんがw
今回少部数のため委託は予定してません、会場にて30部予定。
……足りるよね?マイナーだし(泣)っていうかうち以外にえりうみいなそうで涙でそうなんですががが。
うみまきは予想してたけどえりうみもとか心折れるよ!?いや、サークルカットの時点でだからまだ分からないけどさ;

あ、そんなわけでソルゲ組愛してます(何)もちろん園田さん愛してます。
いえ、通行人A、いや空気になりたい、そしていちゃいちゃしてるのをずっと見ていたいとかそんな愛ですがwww
タイトルは最早何番煎じですかって感じだけど、やっぱこれかな、って。
相変わらず更新亀ですかのっそり書いていくのでこれからもキッドを生温かくお願いいたします〜m(__)m

2014/5/12著


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