黄薔薇の伝統?




「なんだってこんな日に降るかな・・・」


そう呟いて、私は不機嫌の原因を睨み付けた。
睨まれた空は、どんよりと曇り、当分止みそうにない雨を降らせている。


「・・・しょうがないか、止むのなんか待ってらんないし」


今日の目的は今月の最優先事項、雨なんかに負けるわけにはいかないのだ。
私は駅へ向けて走り出した。
鼓動が力強く脈打つのを感じながら・・・・・





「むー、傘指しててもやっぱ濡れるわね」


私は服についた水滴をハンカチ拭う。
まだ服に染み込んでいない雨粒は、小さな宝石のようで美しかった。

それとは対照的なのが窓の外。
水蒸気で曇った電車の窓の外は、依然暗雲が立ちこめている。
私の外出中は徹底して降る気らしい。


「・・・くぅー!新刊の発売日なのにー!!」


そう、今日は待ちに待った新刊の発売日。
本が濡れないようにビニールの袋も準備して近所の本屋に行ったのに・・・・


「売り切れてるんだもんな〜・・・・・はぁ」


新刊は私が来る少し前に、売り切れてしまったらしい。


「だいたい、なんで新刊なのに1冊しか入荷しないのよ、まったく!」


そして私は雨の中、めでたくK駅まで買いに行くことになったのである。
新刊をゲットすれば気分は晴れる、そう自分に言い聞かせて・・・・
・・・・とりあえず暇つぶしの為にガラスに絵を描いてみた。


キラーン!


・・・・なぜか立派なお凸が描けてしまった。(ついでに江利子と書いた)

よく描けているけど、なぜだかとても複雑な気持ちになった。
つーかこんなもんうまく描けても嬉しくない。

落ち着かなくなって慌てて消そうとしたら・・・・


「きゃぁっ!」
「あら?由乃ちゃんは普通の悲鳴なのね」


・・・・本人に捕まってしまった。


「ちょっ!?離してください黄薔薇さま!!」
「江利子さん」
「・・・・・はぁ?」
「今日は江利子さんって呼んで♪」


何を言いやがりますかこの凸は。


「イヤです」
「・・・・即答ね由乃ちゃん。絵に描くほど私が恋しかったくせに」
「な!?だ、誰がそんなこと・・・・はっ!!」


しまった!まだ消してなかった!!


「こ、これは別に、そういうわけじゃ・・・・」
「照れなくてもいいじゃない」
「照れてません!!」
「大丈夫よ、心配しなくても今日一日一緒にいてあげるから♪」
「いなくていい!!つーか離せぇぇー!!!」


・・・・結局、江利子さまを振り切れず、
とっぷり日が暮れるまで付き合わされることになるのであった・・・・・






[1年後]


「何してるの菜々?」
「よ、由乃さま!?これは、その・・・・」
「あら、よく描けてるじゃない。もうちょっと三つ編みが長ければ完璧」
「こんな感じですか?」
「そうそう♪・・・・・これって隔世遺伝するのかしら?」
「は?」
「ううん、なんでもない。・・・・よし、今日は一日菜々に付き合うことにする!!」
「えぇ!?な、なんでですか!?」
「そういう風習なの!」
「風習って・・・」

「さぁ、行くわよ菜々!」
「はい!由乃さま!」


かなり強引だけどデートはデート。きっと楽しい一日になるに違いない。
だって、江利子さまとの一日は、なんだかんだ言って結構楽しかったのだから・・・・

本人には絶っ対に、言わないけどね!!


 

―おまけ―


「ただいま〜」
「お帰り由乃、遅かったね」
「うん、ちょっと遠出したら災厄に見舞われてね」
「災厄?」
「うん、大災厄。で、令ちゃんはどうしたの?」

「あぁ、はいコレ」
「・・・・何?」
「池波祥太郎の新刊♪」
「・・・・」
「あれ?どうしたの由乃?」
「・・・・れ」
「れ?」


「・・・・令ちゃんのバカァーー!!!」





                                         
あとがき(言い訳)

忙しさでお花畑を近くに感じているキッドです、ごきげんよう♪
書いた時期は違うんですが、ずっと送れなかったんで結果的に連続投稿になりました。
祝・黄薔薇オンリーです!!いや、黄薔薇は熱いですね〜♪
蓉子さまや祐巳ちゃんには及びませんが、ちょっとしたマイブームだったり(笑)
ぜひ菜々ちゃんには、これからも登場していただきたいものです♪

今回のお話はですね、由乃ちゃんと菜々ちゃんが、
車窓に絵を描く映像がスポーンッ、と降ってきて出来あがりました。
どうも最近ネタの神様が舞い降りてきていて、好調にSSが書けています♪
もっとも、それでも更新速度がまったり派なので、申し訳ないです(^^;)
のんびり書き綴っていきますんで、これからもどうぞよろしく♪
ではでは、ごきげんよ〜♪


→マリみてSSTOPへ

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