CHOCOLATEは誰が為に(αVer)







この日、紅薔薇さまこと水野蓉子は「人生最悪の日」を噛みしめていた。

体調不良のため失敗を重ねた昨日は最初こそ人生最悪の日であると思ったが、
ずっと見たいと思っていた光景、薔薇の館が生徒達で賑わうところを見ることができ、
まさに人生最良の日であったはずなのに・・・


「・・・・・・・大失態だわ」


朝8時、ベッドの上でそう呟く。
昨日から始まった「青い日」の活動は今日も絶好調、
更に昨日から本格的に活動を始めた風邪こちらも絶好調、
昨日を上回る38度5分もの高熱である。
昨日薬で抑えて無理をしたせいか、どちらも昨日より強烈になっている。

だがしかし、「人生最悪の日」と思った直接の原因は、そのどちらでもなかった。
そう、体調不良などあの大失態に比べたら・・・・・


「・・・・・なぜ今朝になるまで、気がつかなかったのかしら・・・・・」


確かに、昨日は薬の副作用で思考力は低下していた。
それでも、だ。よりにもよって一番大切なことを忘れるなんて・・・・!!
大体なにかを忘れている気がしてならなかったのに、
まともに働かない頭のせいにして考えを先延ばしにしたのが失敗だった。
今朝になり薬の効果と副作用がきれたところで、痛みと共にようやく忘れ物はやってきた。


「・・・もらってないわ・・・・・・・・・・・・チョコレート・・・」


ほんとに、どうして気がつかなかったのだろう。
大切な〈彼女〉からチョコレートをもらうのを忘れるなんて・・・・
今朝から考えるのはこのことばかり、考えれば考えるほど気が滅入ってくるというのに。
ああ、欲しかったなチョコレート。そう思い、出てくるのはため息ばかり。
まともに働かない頭は、ひたすらマイナス思考で気分はどん底、
今日こそはきっと人生最悪の日であろう・・・・

            ・
            ・
            ・


TELLLLLLL、TELLLLLLL

・・・・遠くで電話が鳴っている、いつの間にか寝てしまったようだ。
午後2時、時計は半回転してすでに午前から午後に変っていた。

TELLLLLLL、TELLLLLLL、ガチャ。


「はい、水野でございます・・・・・・」


よく聞こえないがどうやらお母さんがでたらしい。
トントントントン・・・・・・コン、コン・・ガチャリ
階段を上る音が聞こえたかと思うとドアがノックされお母さんが顔をのぞかせた。


「あ、蓉子ちゃん起きたのね。お母さんこれからお仕事に行ってくるから。それから、
いつも頑張りすぎなんだから、今日ぐらい無理しないでゆっくり休みなさいね?」
「・・・・・はい。」


ああ、さっきの電話は仕事の話だったのかもしれない。
今日は私が完全にダウンしたから、仕事の時間を遅らせるなりして傍に居てくれたのだろう。
そしてしっかり釘を刺される、昨日かなり無茶な事をしたから。
でも心配しなくても大丈夫よお母さん。
今日は入試も無いし無茶をするだけの体力、もとい気力も残ってないわ。
そもそも昨日のように無茶してでも動けるなら、とっくに〈彼女〉のところに行ってるもの。
と、〈彼女〉の事を思い出し、また気が滅入りそうになっているとお母さんが、


「あ、そうそう後の事はまかせたから♪」
「・・・・・・・・は?」
「それじゃ行ってくるわね〜♪お留守番よろしく!」


まかせたって何を?と聞き返す間もなく、お母さんは仕事にむけて飛んで行く。
ああ、まかせるってお留守番の事ね。
でも動くのだるいからほんとに居るだけになっちゃうし。まかされても、ねぇ?
そんな事を考えてるうちにお母さんはダダダダダッと駆けていく。
時間が迫ってるのかしら?いや、早く仕事がしたいだけかも。
そしてお母さんが出かけると次第に眠くなってきた。また少し眠るとしよう・・・・・。


            ・
            ・
            ・


深い霧の世界、白い濃霧が立ちこめ1メートル先も見る事が出来ない。
ここはどこだろう?つい先程まで私はベッドに横になっていたはずだ。
しかしながら、このままここにいても埒があかない、不思議に思いつつも私は歩き出した。

しばらく歩くと霧が薄い場所に辿り着き、あたりを見回すと人影が見えた。
よく見知った顔だ、あれは・・・・


「令に由乃ちゃん、それから・・・・江利子?」


そこには黄薔薇姉妹、枕もとにチョコを置きベッドの中で幸せそうに寝こけている令と
思案げな表情でチョコチップパウンドケーキを食している由乃ちゃん、
そして同じくチョコチップパウンドケーキを食している親愛なるでこちん・・・コホン、
もとい親友の江利子の姿が見える。
なぜか由乃ちゃんと江利子は首をひねりながら食しているが、なんだか幸せそうだ。
令を挟んであっちとこっち、それでも黄薔薇姉妹は概ね平和なようだ。


「令お手製のチョコチップパウンドケーキか・・・ちょっと羨ましいかもね」


でも私が求めている物とは違う。
黄薔薇姉妹のところを後にし、私は歩みを進めて行く。
そしてまたしばらく歩くと今度も見知った顔を見つけた。


「志摩子・・・・・?」


そこは薔薇の館の一階にある物置。
志摩子がピンクの紙袋を置いて外に出て行く。めずらしく落ち着きがないのが印象的だ。
続いてキョロキョロしながら入ってきたのは聖。何かを探しているのだろうか?
やがて探し物を見つけたのか、嬉しそうに手にとった。それは志摩子が置いた紙袋だった。
そして紙袋を開け中から取り出したのは、形がちょっぴり歪なマーブルケーキ。
ああ、昨日薔薇の館に行ったとき、聖の頬についていたスポンジ屑はこれだったのか。
でも示し合わせた行動とは何か違う気がする。・・・まさか勝手に食べたんじゃないでしょうね、聖。
ケーキを食べ終えた聖はご機嫌で部屋を出て行く。
後で確認してみよう。そう思いつつその場を後にした。

さて、ここまでのパターンからいって最後はあの子達だろう。


「祥子・・・・祐巳ちゃん・・・・」


予想に違わず、現れたのは私の大事な妹と可愛い孫。
二人は薔薇の館の二階で向き合っている。
祐巳ちゃんは鞄の中からブラウンの箱を取り出した、祥子へのチョコレートだろう。
その箱に手を伸ばす祥子。まったく、なんて幸せそうな顔をしているかしら。
祥子に良い表情させることにおいては、きっと祐巳ちゃんの右に出るものはいないだろう。


「・・・・・・?」


ふと気がつくと、二人はなぜか箱の取り合いをしている。
今更渡すのを渋る必要はなさそうだけど?あら、もう一つ箱が出てきた。
あっ!!・・・・・・・爆発した。
・・・ぷっ、くっくっくっく・・・・。
ああ可笑しい、さすが祐巳ちゃん。やらかす事のスケールが違う。
世界広しといえど、プレゼントのチョコレートを爆発させたのは祐巳ちゃんくらいだろう。
それでも祥子は怒った様子もなく、テーブルの上に転がったチョコをつまんでいる。
その微笑ましい光景に背を向けて歩き出した、そろそろお邪魔虫は退散すべきだろうから。
それにしても・・・・・・


「なにげに皆、バレンタインデーを満喫してるわね。」


ちょっと羨ましいかも・・・・・・
確かに人生最良の日ではあったが、バレンタインを満喫したわけではないから。

そうこうしているうちにゴールに着いたらしい、あたりを覆っていた霧が晴れてゆく・・・


「・・・・・・・・・えっ・・・」


そこには一人の少女がいた。今私が会いたくてたまらない人物が・・・・・
まっすぐにこちらを見ながら微笑んでいる。心の奥に明かりが灯るようなそんな微笑。
私は〈彼女〉に駆け寄りその名を口にした。

「・・・・・・・・祐巳ちゃん」


「なんですか、蓉子さま?」
「・・・・・・・・?」


はて?なぜかすぐ近く、頭の上で声が聞こえたような?


「祐巳ちゃん?」


とりあえずもう一回呼んでみる。


「ですから、なんですか蓉子さま?」
「・・・・・・・っ!!」

霧の世界から引き戻され、一気に覚醒する。
そのまま思いっきり布団を跳ね飛ばして起き上がった!


「祐巳ちゃん!!」
「ぎゃあっ!!・・・・ビ、ビックリした〜。もう!驚かさないでくださいよ蓉子さま!」
「ご、ごめんなさい・・・・」


いつも通りの怪獣の鳴き声を上げ後ろに下がる祐巳ちゃんと、危うく正面衝突をするところだった。
どうやらベッドの傍で椅子に腰掛けてこちらを覗き込んでいた、
祐巳ちゃんの顔面すれすれを通過したらしい。よかったぶつからなくて・・・・・
って、そうじゃない!(イヤ、ぶつからなかったのは良いんだけど)
なぜ祐巳ちゃんがここにいるの!なんで、どうして、why?


「訪ねてきたからに決まってるじゃないですか。」
「え?あっああ、そうよね・・・・・・って、ど、ど、ど、」
「どうして、って?だって蓉子さま百面相してますよ。」
「・・・・・えぇっ!!?」


うわぁ・・・・・最悪、どうやら思った以上に混乱してるみたい。
よりにもよって祐巳ちゃんお得意の百面相を披露したあげく、道路工事まで
やってしまうなんて・・・もう!これじゃあいつもと完璧逆じゃないのよ!
ああ、紅薔薇さまの威厳が・・・・・・


「まったくもう、これじゃあいつもと逆じゃないですか。
ほらほら、病人なんですからさっさと横になってくださいっ!」
「・・・・・はい。」


威厳、欠片も無いかも(泣)


「昨日は特にですけどあんまり無茶しないでください、
 ・・・すっごく心配したんですからね・・・・・・・」
「祐巳ちゃん・・・・・・心配かけてごめんね・・・・・ありがとう・・・・」


威厳、無くても良いかも・・・
そう、この子と二人でいる時は・・・・


「それにしても蓉子さまって、紅薔薇さまの時は最強なのに
蓉子さまの時は可愛いですよね♪見事な道路工事と百面相でした♪」
「・・・・うぐっ」


誰のせいだと思ってるのかしら、会いに来てくれたのは嬉しいけど
道路工事も百面相もあの状況で祐巳ちゃんが現れたから・・・・・あれ?


「ねえ祐巳ちゃん、さっき訪ねてきたって言ったわよね?」
「え?ええ、言いましたよ。」
「祐巳ちゃんが来た頃には私の他に、この家には誰も居なかったと思うんだけど?」
「ええ、居ませんでしたね。」
「ドアにも鍵がかかってたと思うんだけど」
「もちろんかかってましたよ。」


ドアには鍵がかかってた、そして他に誰も居ない。と、いうことは・・・・・・


「じゃ、じゃあ祐巳ちゃんはどこから入ってきたの?」
「もっちろん・・・・窓から♪」
「・・・・うそぉ?!」
「もちろん嘘です♪」

ガクッ
思いっきり脱力。祐巳ちゃんは明るく楽しそうに否定してくれた。


「・・・・本当は雨水管を登って♪」
「・・・・ええっ!!」
「なんてそれも冗談に決まってるじゃないですか〜♪」


再度脱力。ありえない話とわかっていても、私にも読めないくらい、
突拍子もない事をする祐巳ちゃんなので、つい本当にやったのかもと思ってしまう。


「わかりました白状します。
 ・・・・・実は聖さまと江利子さま直伝のピッキング技術で開錠を♪」
「聖〜〜江利子〜〜!!」
「だから〜冗談ですってば〜♪・・・・・・聖さまと江利子さま直伝以外は・・・・」


三度脱力。あぁ、もう完全に遊ばれてる。ていうかあの二人が仕込んだ事は事実なのね。
なんて事教えるのよあの二人は!明日シメ・・・もといたっぷりとお説教をしなければ。


「はぁ、それで結局どうやって入ってきたの?」
「ちゃんと鍵開けてドアから入りましたよ。」
「・・・・・・ピッキングで?」
「だからピッキングは実行してませんって。」
「じゃあどうやって鍵を開けたの?」
「鍵を使ってに決まってるじゃないですか。」
「・・・・・・合鍵渡した憶えは無いんだけど・・・・」
「ええ、もらってません。
 ですから先程お電話した後、蓉子さまのお母様と落ち合って鍵をお借りしました。」
「・・・・・・」


そうか、あの電話は祐巳ちゃんだったのね。
ていうかお母さん・・・・なんでちゃんと教えてくれないのよ。
『後の事はまかせたから』はお留守番の事じゃなくてこういう事だったのね・・・・
でも偶然そういう言い方になったんじゃなくて、絶対確信犯だと思う。
なんかもう今日は病人なのに遊ばれっぱなしだわ・・・・はぁ。
(病人で弱ってる時だからこそ、いいように遊ばれてるとは気づかない蓉子さま)


「・・・・・・そういえば祐巳ちゃん、今日はどうしてうちに?」
「うっ・・・・えっとそれは・・・・」
「・・・・・・それは?」


出た!本家本元、必殺百面相!
祐巳ちゃんはその場で赤くなったり蒼くなったり白くなったり・・・
まるでクリスマスのイルミネーションよう。うん、やっぱり祐巳ちゃんはこうでないと♪


「ですからえ〜っと・・・・・」


形勢逆転。
とりあえず百面相は赤で落ち着いた祐巳ちゃん。
真っ赤になったまま俯いてしまった。


「どうしたの祐巳ちゃん?私には言えない事なの?」
「い、いえ!そう言う訳では・・・・・」
「あら、じゃあどう言う訳なのかしら?」
「ううっ・・・・蓉子さまの意地悪・・・・」


その様子で彼女が今日なんのために来たかは予想がつく。
・・・・・・つくのだが先程散々遊ばれたのでちょっとお返し。
それでも犬であるならば耳と尻尾はたれ下がり
今にも『キュ〜ン』と鳴きそうな顔をされると・・・弱い。


「・・・・・・欲しいなぁ祐巳ちゃんの気持ち。」
「・・・・・・っ!?」


甘いなぁ、と思いつつも助け舟をだす。
祐巳ちゃんにも、これ以上待ちきれない自分にも・・・・・


「・・・・・・くれないの?」
「そ、そ、そ、そんな訳ないじゃないですか!
 私のでよろしければいくらでも差し上げます!!」


嬉しいセリフを口にしつつ祐巳ちゃんは赤い包装紙に包まれた箱を差し出した。
そう先程夢で見たブラウンとアイボリーの箱と同じサイズの・・・・・ん?


「ありがとう祐巳ちゃん、とても嬉しいわ。・・・・でも昨日と違って爆発はしないわよね?」
「はい、もちろん。・・・・・・・・・って、なぜそれを!!」


あ、ほんとに爆発したんだ。
祐巳ちゃんはビックリ仰天って顔でこっちを見ている。


「ああごめんなさい、さっき夢の中で爆発していたものだから。」
「へっ?あ、あぁ、そうだったんですか〜」
「ええ、そうなのよ。・・・もっとも現実にも爆発したみたいだけれど。」
「あうぅ・・・・・・」
「でも一体どうしてそんな事になったの?」
「え〜っとですね、白薔薇さまの御仕置き用に持ってきた
 ブラウンの箱を間違って祥子さまに渡そうとしてしまいまして・・・・・」


祐巳ちゃんが事のあらましを語ってくれた。なるほど、それで取り合いになったあげく
慌ててアイボリーの方を渡そうとしたから爆発を招いた、と。
それにしても聖にも持ってきてたなんて・・・
きっと聖がひたすら催促したのね・・・(御仕置き用なあたり)


「爆発した理由は分かったわ。・・・でも祐巳ちゃん私には持ってきてくれてなかったの?」
「はうっ!!」
「そりゃあ、祐巳ちゃんからもらうのを忘れて
 会わずに(意識朦朧としてたから)帰っちゃった私も私だけど・・・・」
「ち、ち、ち、違うんです!えっと、あの、昨日蓉子さまがいらっしゃるのは知っていた
 んですがお会いできるか分からなかったから一度帰ってお電話してから伺おうと・・・」


百面相をしつつ、しどろもどろになりながらも必死に答える祐巳ちゃん。


「・・・・・・よかった。
 それじゃあ渡す気が無かった訳じゃないのね。こうして持ってきてくれたことだし。」
「もちろんです!!一日冷蔵庫の中に置き去りにしてしまっただけで・・・はっ!!」
「電話も無かったし置き去りって事は・・・・・・忘れてはいた訳ね?」
「ひゃうぅ!!あの、その、爆発事件のせいですっかり・・・・ごめんなさい!!」
「・・・・・・そうね、私も忘れていたのだからおあいこという事にしましょうか。」


私がそう言うと祐巳ちゃんは心底安堵した表情になる。
きっとこの事で私に怒られるんじゃないかと、来るまで散々悩んだんでしょうね。
それでもこうして来てくれた。その事実に心が幸せで満たされる。


「ほんとにありがとう祐巳ちゃん。・・・開けてもいいかしら?」
「あ、はい、どうぞ♪」


包装紙を外し箱を開けると銀紙に包まれた小ぶりなカップケーキが顔をだした。


「美味しそうね、いただくわ。」


私は銀紙を外してカップケーキを口に運んだ。
それは焼き立てほどでは無いにせよふっくらとやわらかく、
そしてほんのり甘くとても美味しかった。


「あの、蓉子さま、お味の方は・・・・・?」
「ふふっ、最高よ。とても美味しいわ。」


じーっとこちらを凝視しながら聞いてきた祐巳ちゃんに私が答えると、
祐巳ちゃんは『ぱぁ』っと輝かしい笑顔を向けてくれる。この子の笑顔は本当に素敵だ。


「はぁ〜よかった。あ、ところで蓉子さま、実は祥子さまに渡したびっくりチョコレートには
 あたりの景品として私との半日デートをプレゼントしたのですが・・・」
「えっ!!」


半日デートですって!!
くっ、祥子ったらなんて羨ましいものを・・・・


「そ、それで祐巳ちゃん、私のチョコにはあたりは無いのかしら?」
「ありません。」
「・・・・・・っ!」
「だって箱自体があたりですから♪」
「・・・えっ?・・・」


祐巳ちゃんに楽しそうにそう言われ、私は慌てて箱を見た。
そしてそれは箱の内側の底、つまりカップケーキの下にこっそりと隠れていた。


「これは・・・・?」
「蓉子さまに差し上げます、一日送れたお詫びと私の気持ちを込めて・・・・」


隠れていたカードにはこう書かれていた。
『福沢祐巳貸切券』・・・・っと。


「祐巳ちゃん・・・凄く嬉しいわ・・・ありがとう・・・・・・」
「えへへ・・・色々考えたんですよ。どうやったら蓉子さまに喜んでいただけるか。」
「ふふふ、チョコレートだけでも十分過ぎるくらいに嬉しいのに・・・・あら?
 ・・・・・・このカード使用期限と時間、それに回数が書いてないわよ?」
「・・・へっ?・・・・・あっ・・・・」


どうやら意図的にではなく書き忘れらしい。でも私にとっては好都合、だから・・・・


「という事はどれだけ使ってもいいって事よね?」
「ええっ!!で、で、でも毎日は・・・・!!」
「もう、聖みたいなタイプと一緒にしないでちょうだい。無茶な事は言わないわ。」
「それはそうですが・・・でも・・・」
「ダーメ、このカードはもう私の物よ。その代わり・・・・・」
「・・・・・・?」


いまいち納得できていない祐巳ちゃんに、私は耳元で取って置きの一言をささやく。


「ホワイトデーには私の貸切券をあげるわ・・・・・」
「・・・・・っ!!」


真っ赤になりながらも祐巳ちゃんは小さく頷いてくれた。
こうして私の人生最悪の日はまたしても覆されたのであった。

〈翌日〉


「ごきげんよう、聖、江利子。」


登校した早々、マリア様の前で親友二人を発見した私は声をかけた。


「「ごきげんよう、蓉子。」」
「蓉子、もう具合良くなったの?」
「ほんとよ、この間みたいな体調でうろうろされたらこっちが困るわ。」


挨拶を返しつつ二人が聞いてくる。


「ええ、昨日ゆっくり休んだからもう大丈夫よ。」
「そっか、ならいいんだ。ボーっとしてる蓉子も可愛いからちょっと残念だけど。」
「確かに、ああいう蓉子は貴重だわ。カメラちゃん撮ってないかしら?」
「バカな事言ってないでちょうだい。・・・・・ところで二人とも・・・・」


私が声の調子を変えたところで二人がビクッっとなる。


「いつからピッキング技術なんか人に仕込むようになったのかしら?」
「「なぜそれをっ!!」」
「祐巳ちゃんに聞いたのよ。」
「あ、なんだ。祐巳ちゃんしゃべっちゃったのか〜」
「ちゃんと口止めしといたのに。」
「あなた達ねぇ・・・・・・」


まったく・・・この二人には悪い事教えてるって自覚は無いのかしら・・・・


「まぁいいわ話は薔薇の館に行ってから・・・ゆぅっくりと、聞かせてもらいましょうか・・・・」
「「あの、蓉子さん、お手柔らかに・・・」」
「無理。諦めなさい。」
「「はうぅ〜〜〜〜」」


さて、このまま薔薇の館に行って二人をシメ・・・もといたっぷりお説教をしなければ。

・・・・・あ、そういえば・・・・


「ところで二人とも、マーブルケーキとチョコチップパウンドケーキは美味しかった?」
「「なぜそれをっ!!」」


マリア様が見守る学園に、早朝から白薔薇さまと黄薔薇さまの疑問の叫びが響く。
それを紅薔薇さまは優雅に微笑んで見ていらっしゃいました。

・・・ところで、この後しばらくの間、
紅薔薇さまエスパー疑惑が発生したとかしないとか・・・・・・・・・

・・・・・それでも学園は今日も平和です。


あとがき(言い訳)

はぁ〜、ようやく終わりました。
当初の予定ページを倍以上オーバーしてしまいした(汗)
てかマリみて初書きがこのCPか、自分。
いや〜マリみてCPは節操無しで、どのタイプも好きなんですが今これがマイブーム(笑)
それに王道CPは皆様書かれるんで自分で書くならマイナーかな〜っと。
でも基本は祐巳ちゃん総受けで(笑)
これからも頑張りますんで皆様どうぞよろしくm(_ _)m


→マリみてSSTOPへ

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