Precious Memories
―おまけ2―
「それで涼ちゃんったら逃げ出したんですよー?ひどいと思いません〜?」 「ひどいのはどっちだよ・・・・・」
幾度となく繰り返されたその台詞は、いいかげん耳にタコができるくらいに聞かされていた。 なにせ友人達のみならず、教授達のところまで行く始末。 おかげで午前中のわずか3時間で学校公認の仲である。
ちなみに友人たちは、冷ややかな方がましだったと思うほどに、生暖かい目で祝福してくれた。 おまけに、ついに涼子が喰われたか・・・・なんて不穏な台詞まで聞こえた。 喰われてないから、つーか哀れみの視線を向けるな!! 等々、愛だけじゃなく友情も痛すぎな19の春、すでに色々選択を間違った気がして、己の運命を呪うのであった・・・
「合掌」 「やるのはいいけどやられるのはムカツク」 「わがままね〜涼子ちゃんは」
静香さんがそうやって私の神経を逆なでするからだろ。
「しかもそのまま帰ってこなかったんですよ涼ちゃん!」 「あらまぁ、新婚早々新妻に寂しい思いをさせちゃだめじゃない、涼子ちゃん」
いや、あれは正当防衛であって・・・・つか結婚してないし。
「おまけに涼ちゃんったら、よその女のところに泊まったんですよ!!」 「浮気は甲斐性とは言うけれど・・・・初夜にそれはまずいんじゃない涼子ちゃん」 「浮気と違うし、結婚したわけでもないってば!!」
「私とは遊びだったのねー!!!」 「あほかぁぁぁーー!!!」
えぇい、くそ、いつまで続くんだこのアホな会話は。
「まぁまぁ二人とも・・・うまくいってるのはわかったからそのへんで・・・・」
ナイスだ姉さん!どこがうまくいってるんだって感じだけど、よくぞ話を止めてくれた。 とりあえずこの妙な話の流れを修正して、身の安全を確保しないと・・・・・ 家に帰れない・・・・・
「そうね〜、告白止まりかと思ったけど、キスまでしたのは涼子ちゃんにしては上出来よね」
さらりと余計なことを言う静香さん。 あぁ、もう、勘弁してほしい・・・・・
「あの、静香さん?そのへんでそろそろ・・・・」
勘弁してください、と私が言いかけたところでポツリと一言。
「手の早いところは誰かさんと同じだったのね・・・・」
色々と弁明したいところはあるけれど、それよりも・・・・誰かさん、って誰?
静香さんの視線の先には・・・・・
「あー・・・いや、その、なんと言うか・・・・・」
だらだらと冷や汗を垂らしつつ、一生懸命弁明を考えている、我が姉の姿があった。
姉さん、あんた一体何したのさ。
「けどまぁ、きっとこの後が長いわよ」 「うー、やっぱりそう思います?誘い受けを目指して昨日も迫ってみたのに、逃げちゃうし・・・・涼ちゃんの根性無し」 「あぅ・・・・・」
静香さんが更に蒸し返すもんだから、亜希の方から強烈なジト目が・・・・ いや、それより問題なのは、ものすごく不穏な単語ばかり聞こえることなんだけどさ。
「甘い!」 「し、静香さん?」 「甘いわよ亜希ちゃん!!」
突然テーブルを叩き立ち上がった静香さんは、 そう言いながらズビシィィ!! っと、亜希に指を突きつけた。
「亜希ちゃん、誘い受けは誘導するから誘い受けなのであって、ただ迫るだけのやり方とはレベルが違うのよ!!」 「はぅっ!!・・・・い、言われてみれば確かに・・・・・」
力説する静香さんに力強く頷く亜希。
いや、納得すんなよ。 「誘い受けマスターへの道は辛く厳しいのよ!!」 「うぅ・・・、でも、それでも私は目指したいんです!!」
「そう・・・・貴女の決意は分かったわ亜希ちゃん」 「静香さん・・・・」 「私が誘い受けの極意を伝授して、立派な誘い受けマスターにしてみせるわ!!」 「・・・はい!!ありがとうございます静香さん!!」
あぁぁ・・・・なんか身の危険しか感じない方向に、話が流れてるような気が・・・・・ そしてそんな私の心配をよそに、ガシッ!っと握手を交わす二人。
なんていうか、師弟愛? みたいなのが芽生えてそうな・・・うぅ、今後は怯えながら過ごすことになるのだろうか・・・・ い、いや、きっとまだ何か打開策が・・・・!
ぽんぽん
「ん?・・・・姉さん?」
我が身を守るため必死に無い知恵を絞る私。 その私の肩を叩いたのは姉さんなんだけど・・・・姉さんはじーっと、哀れみのこもった目で私を見た後・・・・・
「・・・・・」
ふるふる、
っと、無言で首を振った。
「・・・・あうぅぅ」
だめですか?だめなんですか!?あきらめろってことなんですか!?
「まぁ、その・・・・なるようになるって」
などと、アドバイスだかなんだかよく分からないことを言う姉さん。
だけど・・・・
「なるようになった方が困るよ〜・・・・」
とんでもない方向に、流されていくことだけが確定している私にとっては、 そんな情けない声をあげるだけで精一杯である。
「まっててね涼ちゃん!立派な誘い受けマスターになってみせるから!!」
亜希の気合に満ちた宣言を聞いて、愛って色々大変だな〜、って漠然と思ってるあたり、思考が現実逃避を始めたらしい。
私、これからどうなるんだろう・・・・・
無駄だと知りつつ、必死に平穏無事を祈るのであった・・・・・
....第一部Fin♪
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