Precious Memories Act1. 3
「・・・つ、疲れた・・・・はぁ〜」
玄関のドアを開けて、私はカエルのように突っ伏した。
結局、あの後すぐには解放してもらえなかった。 お姉ちゃ・・・・姉さんが、お腹のあたりにぎゅーっと、張り付いて離れなかったからだ。 それを見ながら静香さんは笑いながらからかってくるし。 バカ姉貴め・・・・・
「まったく、どいつもこいつも・・・・」
などと突っ伏したままぶちぶちと文句をたれる。 そこ!潰れたカエルの鳴き声とか言わない!ただ不平を垂れ流してるだけなんだから! え、耳障りなのは一緒? ・・・・失礼な。
「こんなのいつものことじゃ・・・・亜希?」
更に不平をたれようとして気がついた。 いつもなら、横で笑いながら聞いている亜希が部屋からでてこない。 この時間だともう帰ってるはずなのに・・・・・
「靴は・・・あるな。・・・電気もつけないでなにやってるんだ?」
疑問を確かめるべく、ほふく前進で進む。 ・・・・・いや、決してふざけているわけではない。 ただ起き上がるのがめんどくさいのだ。 というわけで、そのままズリズリと進みリビングへ続く扉へと辿り着いた。
が、しかし。
いかんせんドアノブの位置が高い。 腹這いのまま必死に手を伸ばすが届かない。
どうする涼子!!
「・・・・・」
・・・・・考えるのがバカバカしくなったので、のそりと立ち上がりドアを開けた。
玄関を開けてからこのドアを開けるまで正味10分。 無駄になげーな。
ドアを開けて中に入ると亜希は・・・・いた、ソファーの上でうずくまっている。 ・・・・具合でも悪いのか?
「亜希ー?帰ってるなら電気ぐらい・・・・・うぉあぁっ!?」
心配になって、ソファーで膝を抱えてうずくまっている亜希に近づいたら・・・・腹に強烈なタックルを喰らった。
死なす気か!?
『抱きつかれて転倒、テーブルの角でご臨終。愛が痛すぎた19歳』
思わずそんな見出しが頭に浮かぶが・・・・・まぬけすぎて笑えない。 そもそも愛ってゆうのか、これ。 とりあえず倒れた方向がテーブルのある方じゃなくてよかった・・・・
「あたた・・・・あーもぉ、いきなりなにするんだよ亜希ぃー・・・・」
まぁテーブルがなくてもこけたことには変わりはなく・・・・ちくしょう、腰が痛え。
「まったく、どうして亜希はそう後先を考えずに・・・・・亜希?」
いかんせん危ないので、注意をしようとしたのだけれど・・・・ 私に張り付いたままの亜希は押し黙ったままで、・・・・・その肩は小さく震えていた。 や、やっぱり、どっか具合でも悪いんじゃ・・・・
「ちょっ、亜希っ、なんで泣いて・・・・・」
「・・・・・かないで」 「えっ・・・・・」
「どこにも行かないでっ・・・・・」 「・・・・・・!?」
・・・・・今亜希はなんて言った? 『どこにも行かないで』? 行くわけがない、私は亜希が好きなのに。 腕のなかの亜希を、こんなに愛しいと感じるのに・・・・・ むしろ、私から離れて行くのはきっと亜希の方だと、ずっと思っていたのに・・・・・
「いなくならないで・・・・・」
当然ながら、私の気持ちを知らない亜希は、震える声でそうつぶやく。 その亜希の言葉で、私はやっと言えずにいた思いを口する決心がついた。
「亜希・・・・行かない、どこにも行かないよ。だって、だって私は・・・・亜希のことが、好きだから・・・・」
決心がついた私は、今まで言えなかった好きという単語を、自然と口にすることができた。
好きだから、大切だから、これ以上泣いて欲しくなくて、私は亜希を強く抱き締めたまま言葉を紡ぐ。
「だから、許されるなら私はずっと亜希のそばにいたい・・・・・」 「っ・・・涼ちゃっ・・・・」 「他の人じゃない、亜希の、亜希のそばにいたいんだ・・・・・」
言葉にするのがずっとずっと怖かった。 一度口にしてしまえば、もう戻ることはできないから。 そして臆病な私が亜希を泣かせているんだね。 ごめんね、こんな私で。 だけどそれでも、私は亜希のそばにいたいんだ・・・・・
「っ・・・わ、私・・・・」 「亜希・・・・」 「私・・・私も涼ちゃんが、好き・・・・でも、ずっと怖くて、ちゃんと言えなかっ・・・・・」 「亜希・・・・!!」
その言葉が嬉しくて、同時に少し苦しくて。 ごめんね、と、ありがとう、を込めて亜希を抱き締めた。 ごめんね、亜希だって怖かったんだよね。それでも私を選んでくれて、ありがとう・・・・
「ん・・・・苦しいよ涼ちゃん・・・・」 「ごめん・・・でも、嬉しくて・・・・・」 「・・・うん・・・私も、嬉しい・・・・・」
そう言ってお互いに微笑んでから、もう一度抱き締めた。 それからちょっとおどけてこう言った。
「それでは亜希さん、正式に私とお付き合いいただけますか?」って。
一瞬、亜希はきょとんとした顔をして、だけどすぐに笑顔で
「はい、よろこんで」
と、返してくれた。
「・・・・ねぇねぇ涼ちゃん、彼氏じゃなくて・・・・彼女?」 「うん、彼女と彼女」 「そっか」 「そうだよ」
この関係が世間一般に認められることはないかもしれない。
だけど後悔なんてしていない。 だって、そうやってひとしきり笑いあってから、そっと交わした口付けは、 たしかに、幸せで満ち溢れたものだったのだから・・・・・
....FIN♪
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