Precious Memories

Act1. 2



理性と本能が戦い抜いた翌日、ちょっと苦手な人物から声をかけられた。



「鏡さん」
「はい?」



呼ばれて振り返って・・・・絶句。
この日、学内テラスで意気消沈していた私に声をかけてきたのは・・・生徒会長!?





「鏡さん?・・・・・もしも〜し、涼子ちゃ〜ん?」
「涼子ちゃん言うな」



思わず突っ込んだら・・・・



「・・・・・口のききかたがなってないわね」
「いででで・・・ごめんなさい、反省してます・・・」



報復された。ほっぺたが痛い。

ちっ、暴力会長め。



「・・・・・」
「あだだだだっ!?」
「今何か失礼なこと考えたでしょう?」



エスパーかよっ!?

つーか痛いぃー!!



「す、すみません・・・・」
「ダメ、許さない♪えいっ♪」



むぎゅ♪

ぐえっ。



「うぅ〜ん、涼子ちゃん細いよね〜、どうやったらこんなに細くなるのかしら?」
「く、苦しい・・・・てか、知りませんよそんなの。いいから離れてくださ・・・って、どこ触ってるんですかっ!?」
「え?どこってそりゃあ・・・」
「いえ!やっぱ言わなくていいですから、とにかく離してください!!」
「えぇ〜?なんでー?こんなに楽しいのに〜♪」



楽しくないっ!!



「・・・お姉ちゃ・・・姉さんにいいつけてやる・・・・・」
「うっ、それだけは勘弁。私、まだ死にたくない」



そう言うと彼女はしかめっ面をしてパッと離れた。
あぁ苦しかった・・・・抱きつくのはともかく、腕が首にきまってるってどうよ?



「そう思うならやらなきゃいいのに・・・・・」
「ん?んー・・・・でも涼子ちゃん寂しそうだったから、かまってあげようかなーって思って」
「・・・・寂しそうでした?」
「うーん、寂しいというか、つらそうと言うか・・・・悩み事?」



・・・・・普段学内じゃ声かけてこないのに、
どうして今日に限ってこんなにじゃれてくるんだろうって、思ってたけど・・・・・
見抜かれてたのか・・・・・

かなわないなぁ・・・・・・・



「えぇ、まぁ・・・・悩みといえば悩みですね・・・・・」


「・・・亜希ちゃんのこと?」
「はい・・・」
「好き?」


「好き・・・だと思います・・・誰にも、渡したくないくらいに・・・・・」



亜希は、私を好きだと言ってくれる。
だけど・・・その好きが私と同じ意味なのか、確かめるのが、怖い。
この浅ましい独占欲を彼女の前にさらすのが、怖い。
そして彼女に嫌われることが、なによりも怖い・・・・・




「そっか・・・・私と同じね」
「えっ・・・・」



・・・何を言い出すんだろうこの人は。
あんなに姉さんとラブラブのくせして・・・・



「気持ちが通じあっていても、いつ気持ちが離れてしまうかなんて分からないわ。
だからなおさら嫌われるのは怖いわ。一度手にいれたものを失う方がつらいのかもしれないし」

「・・・姉さんが静香さんを嫌いになるなんて、ありえないよ・・・・・」


「うん、ありえない」


「そうね、そうだといい・・・って京!?」



ありえないと言いきる、そんな第三者の声は、真横から突然会話に割り込んできた。
長身に整った顔立ち、そしていつも通りの少しヘラッとした笑みを携えて、その人はそこにいた。


・・・・・姉よ、どっから涌いて出た。



「やだな〜静香ってば。私が静香を嫌うより、私が静香に愛想つかされる可能性の方が高いって」
「そうかしら・・・・?」
「むむ、君の京さんを信じられないのかな〜?」



((そういうところがね))



いかんせん、基本的におちゃらけてるので、
こういう場面では信頼が薄い我が姉、鏡京子。静香さんは[けい]ってよんでるけど。
嫌われる云々より別のことが色々心配になりそうな人。


まぁ、私がその存在を知ったのはつい3年ほど前のことなんだけどね・・・・



「なんで二人してジト目で見るかな・・・・私ってそんなに信用ない?」

「「ない」」


私も静香さんも微笑みながら即答してやった。



「・・・〇| ̄|_ 」



あ、へこんでる。



「それより京、貴方就職活動はどうしたのよ?」
「うー、ちゃんとやってるよ〜?今日も一つ行ってきたし」



4年生はこの時期何かと大変なものだが・・・・
姉さんも真面目に活動しているらしい、ちょっと意外。



「よしよし、真面目に頑張ってるのね」



そう言って頭を撫でる静香さん。
撫でられている姉さんはというと・・・・溶けていた。


よそでやれバカップル。



「・・・・なにか言いたそうね、"涼子ちゃん"」



黙れ、バカップル。



「いいえなんにも、お邪魔虫は退散しますから、ごゆっくりどうぞ」



よそでやらないなら、私がよそへ行くに限る。
こういうのは直視しない方がいい。

だって胃もたれしそうだし・・・・・



「涼子ちゃん」
「んぁ?」



だから、涼子ちゃん言うなっつーに。



「話を聞くぐらいならいつでも出来るから。まぁ、聞くだけになるかもしれないけどね」




・・・・不意打ちとは卑怯だ。

だって、素直に嬉しいと思っちゃうじゃないか・・・・・




「・・・・ううん、充分だよ、ありがとう静香さん・・・・・」


「えぇ。まぁ、思うようにやってみなさい・・・・"涼子ちゃん♪"」



・・・・ありがたいんだけど、感謝もしてるんだけど・・・・・こればっかは譲るわけにはいかない。



「涼子ちゃん言うなつってんだろぉぉーー!!」



という私の叫びは学内で虚しく響くのであった・・・・




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