新年こいこい。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
わいわいがやがやと賑わう境内。
正月の三が日を過ぎたと言っても学生達はまだ冬休み。
とはいえ、混雑する三が日を避けてお参りにやってくる人間も少なくはないわけで。
そう、ちょうど私達のように。
 
 
 
 
「祐巳ちゃん、お賽銭ある?」
「はい、ちゃんと持ってきましたよ、五円玉。蓉子さまこそ、さっき使っちゃってませんでしたか?」
「あら、抜かりはないわよ。お財布とは別にポケットに入れてきたもの」
 
 
 
 
お賽銭、といえば定番の五円玉。
それを右手に持って微笑み合う私と蓉子さま。
現在一番近くでそのお美しいお顔をじっくり拝見できる訳でして……福沢祐巳、ただいま幸せの真っ只中だったりします。
ふふふふ……
 
 
 
 
「……祐巳ちゃんは今年も面白いわね」
「……はっ! ……百面相、してました?」
「ええ、いつもどおりに」
 
 
 
 
そう言ってにっこり笑う蓉子さま。
うぅぅ、し、新年早々蓉子さまの前で、百面相をさらすことになるなんて……
麗しいその笑顔が、そこはかとなく痛いです。
しくしく。
 
 
 
 
「落ち込むことないわよ祐巳ちゃん。試験勉強でちょっと疲れてたから、祐巳ちゃんの百面相でちょっとほっとしたもの」
「……百面相に疲労回復効果ってあるんでしょうか」
「あるわよ、少なくと私には。祐巳ちゃんの顔を見るとなんだか凄く和むんだもの」
「うー……えへへ」
 
 
 
 
百面相が和む、と言われてもひじょーに複雑ではあるけれど、それで蓉子さまに喜んでいただけるなら悪くない。
にへら、と自分の顔が崩れるのが分かるけど、これもまた百面相の一つだと思えばいいに違いない。
上機嫌のままお賽銭を投げ込み、ガラガラと鈴を鳴らす私に続いて蓉子さまお賽銭を投げ入れた。
 
 
 
 
「……」
「……」
 
 
 
 
そして二人で手を合わせてお祈りをする。
えーっと、とりあえず今年も家族皆元気で過ごせますように。
祐麒が道を踏み外しませんように。お姉ちゃんはとてもとても心配です。
あ、あとお姉さまが最近ちょっと怖いです。GPSって悪用しちゃいけないんですよ、知ってますかお姉さま?
それから、えーと、んーっと……
 
 
 
 
「……ぷ」
「……ぷ?」
「く……ふふふ……ご、ごめんなさい、あんまり真剣にお祈りしてるものだから……」
「はぅ……こ、こんなとこまで観察してないでくださいよ蓉子さま!」
「ふふ……、一体何をそんなに一生懸命お祈りしていたの、祐巳ちゃん」
「えーっと……い、色々ですよ。そういう蓉子さまこそ、何をお祈りしたんですか?」
「私? そうね私は……今年も祐巳ちゃんのその百面相がたくさん見れますように、かな」
「うぇぇ!? お、お願いしないでくださいよそんなことぉ〜……」
 
 
 
 
必死にお祈りをしていたら途中から蓉子さまにしっかりと観察されていたらしい。
そうですか、そんなに私の百面相が好きですか蓉子さま。
 
 
 
 
「ところで祐巳ちゃん」
「なんですか蓉子さま」
「さっきから聞こうと思ってたんだけど……」
「はい」

「ねぇねぇ祐巳ちゃん、あれ見てあれ! ほらあのお面祐巳ちゃんが百面相してる時そっくりだよ!」
「祐巳! お賽銭がたったの五円だなんて少なすぎるわ! 私が今からでも調達をして……!!」
「令ちゃんあれ取って! あの角っこのぬいぐるみ」
「あらそれよりあっちの小物の方がいいわ。残り一発だけど……分かってるわよね、令」
「あ、う、よ、由乃、お姉さまぁ……」
「乃梨子ったら、頬っぺたにソースがついてるわ」
「あぁっ、ご、ごめん志摩子さん。お腹すいてたからつい……」

「……どうして二人で初詣に来たはずなのにこんなに賑やかなのかしら」
「……ええはい、私もまったく同じことを考えてました」
 
 
 
 
わいわいがやがや、の主な原因であるお姉さまたち。
内緒にしていたはずなのに、一体どこから嗅ぎ付けてきたのか不思議でならない。
 
 
 
 
「まぁほら、大勢の方が楽しいじゃない」
 
 
 
 
遠慮って言葉知ってますか、聖さま。
知りませんか、そうですか。
 
 
 
 
「……まぁ、聖や祥子達のこれはいつものことだものね」
「お、何蓉子、余裕じゃない?」
「これだけ毎回騒がしければいい加減慣れるわ。それに誰が来ても祐巳ちゃんは渡さないもの」
 
 
 
 
晴れやかな笑顔できっぱり聖さまに告げると、私の手を取って歩き出す蓉子さま。
手を引かれる形になったからその表情は見えないけれど、ちょっとだけ赤くなった耳がその心中を表しているようで。
だらしなく崩れてしまっている私の顔ほど分かりやすくは無いけど、こっそり私にだけ見せてくれる蓉子さま想いの欠片。
 
 
 
 
「……今年もよろしくね、祐巳ちゃん」
「はい、蓉子さま!」
 
 
 
 
新年は上々の滑り出し。
今年もいい年にしましょうね、蓉子さま♪

 
 
 
 

...Fin

 
 


あとがき(言い訳)

ども、久しぶりのマリみてSSです。
原作に蓉子さまが登場しなくなって早幾月……デター!と思ったら本編終了とかもう泣くしかありません。
あ、年末の短編読みました。面白かったです♪
……でも短編も楽しいですが、やっぱり三年生な祐巳ちゃん達や大学生な蓉子さま達が見たいです……しくしく。
というわけで、目指せ自給自足!(笑)
2010年もよろしくおねがいします〜(キ^^)ノ

2010/1/12著


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