紅葉日和(前編)

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
秋、木の葉が色付くこの季節、
スポーツの秋だとか芸術の秋だなんて言うけれど、個人的には食欲の秋。
葉っぱは葉っぱでも、落ち葉で焼芋とかそっち系。

でも今日は、そんな食いしん坊な自分はちょっとお預け。
 
 
 
 
 
 
「こっちよ祐巳ちゃん」
「待ってくださいよ蓉子さま〜」
 
 
 
 
 
 
なにせ今日は、蓉子さまと一緒に紅葉を見に来てるんだから。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そもそも今日は、蓉子さまと約束していたわけでは無かった。
朝に一本の電話をもらったことから始まったのである。
 
 
 
 
「祐巳ちゃ〜ん、電話よー?」
「・・・・んぁ?」
 
 
 
 
ぬくぬくと惰眠を貪っていた日曜日、お母さんの声で起こされ若干不機嫌になりつつ布団から這い出した。
 
 
 
 
「ふぁ〜あ、も〜休みの日に一体誰〜?」
 
 
 
 
惰眠の邪魔をされた気分そのままに子機をとる。
・・・・だって、せっかく蓉子さまと一緒の夢だったんだもん。
 
 
 
 
「・・・もしもし」
「あぁ祐巳ちゃん?ごきげんよう、お休みの日にごめんなさいね」
「ふぇ!?よ、蓉子さま!?」
 
 
 
 
けれど子機から聞こえてきたのは、正しく蓉子さまの声で。
一瞬夢の続きなんじゃなかろうかと、本気で疑ってしまった。
 
 
 
 
「ひょっとして、寝てたかしら?」
「あぅ・・・はい」
「やっぱり?不機嫌そうな声だったから、もしかしてと思ったのだけれど」
「す、すみません蓉子さま・・・・・」
 
 
 
 
受話器の向こう側で、苦笑していそうな蓉子さまが思い浮かぶ。
はい、寝てました。
不機嫌全開でした、ごめんなさい。
 
 
 
 
「何かいい夢でも見ていたのかしら?」
「はい、あの、蓉子さまと一緒の夢だったから・・・・」
「ふふ、それは嬉しいわね」
「でも、夢より現実の蓉子さまの方が断然いいです♪」
「ありがとう祐巳ちゃん。じゃあその現実で、私とお出かけしましょうか?」
「はぇ?」
 
 
 
 
それはすなわち・・・・お出かけ=蓉子さまとデート、なわけでありまして・・・・
 
 
 
 
「行きます!」
「よかった、約束していたわけじゃなかったから、もう予定が入ってるかもって思いながら連絡したから」
 
 
 
 
いや、何にもありませんでした。だから寝てたわけだし。
 
 
 
 
「じゃあ一時間後に迎えに行くわね?」
「はい、分かりました!お待ちしてます♪」
 
 
 
 
そう約束して電話を切った。
やった、蓉子さまとデートだ!!
 
 
 
 
「どこに行くのかな〜・・・・って」
 
 
 
 
ちょっと待て。

そういえば私、さっきまで惰眠を貪っていたんじゃなかろうか?

服→パジャマ、髪→ボサボサ、顔→洗ってない。
 
 
 
 
「・・・・のぉぉおおっ!?」
 
 
 
 
やばい、一時間で支度なんて間に合うだろうか?
いや、こうしてぼけっとしてる間にも時間はどんどん過ぎている。
 
 
 
 
「・・・・お母さぁーん!!」
 
 
 
 
とりあえず誰かに手伝ってもらわねばと思い、お母さんを呼ぶ。
 
 
 
 
「あら?どうしたの祐巳ちゃん?」
「お母さん、これから蓉子さまとデートなの!」
「まぁ!蓉子さんと!?じゃあ祐巳ちゃんおめかししないと!」
 
 
 
 
ちなみにお母さんは『蓉子さん』と呼んでいる。
前はさま付けだったんだけど、
蓉子さまに『お母さま(お義母さま?)にさま付けされる訳にはいきません。どうぞ蓉子とお呼びください』と、
あのスマイルで言われ、頷かざるをえない状況だったのである。
とはいえ、呼び捨てすることは出来ず、結果的にはさん付けで落ち着いた。
もちろん、そのスマイルに当てられたお母さんが、卒倒するというオプションもついていたのだが。
 
 
 
 
「うん、でも時間無いから支度手伝って!」
「分かったわ、頑張りましょう祐巳ちゃん!」
「うん!」
 
 
 
 
何を頑張るのかと問われれば、全部だよ、と答えるしかないような勢いのままに、お母さんと二人でバタバタと支度を始める。
 
 
 
 
「休みの日くらいゆっくり寝かせてくれよ・・・・・」
 
 
 
 
どこからともなく聞こえてきた弟の呟きは、聞かなかった事にした。
すまん弟よ、姉はこれからデートなのだよ。

うふふふふ・・・・

とかいう怪しい笑みが漏れてたとか、漏れてなかったとか・・・・・
 
 
 

....To be continued 


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