紅葉日和(後編)

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「んと・・・よし、出来た」
「よかった、間に合ったわね祐巳ちゃん」
「うん、ありがとうお母さん」
 
 
 
 
髪良し、服良し、顔何時も通り、よし完璧だ。
・・・・いや、まぁ顔は元々あれだし、ねぇ。
 
 
 
 
「じゃあ後は蓉子さまを待つだけ・・・・」
 
 
 
 
ピンポーン
 
 
 
 
「って、来たみたい」
「ほら祐巳ちゃん、蓉子さんをお待たせするわけにはいかないわ、行ってきなさい」
「うん、じゃあ行ってきますお母さん」
 
 
 
 
にこやかに見送ってくれるお母さんに手を振って、階段を駆け降りる。
でもさすが蓉子さま、本当に約束の時間ぴったりだ。
そして玄関にたどり着くと、一つ息をついてから扉を空けた。
 
 
 
 
「ごきげんよう祐巳ちゃん、急な話でごめんなさいね」
「ごきげんよう蓉子さま、いえ全然、むしろ凄く嬉しいです!」
 
 
 
 
いつものように穏やかに微笑む蓉子さま、後光が指して見えそうです。
そんな蓉子さまは、本日はパンツルック。
あぁ、脚線美が目に眩しい。
あれ?でもこの格好ってことは・・・・・・
 
 
 
 
「さて、それじゃあ行きましょうか」
「あ、はい・・・・」
 
 
 
 
そして蓉子さまの後ろに見える赤いバイク・・・・にっこり笑った蓉子さまは、そのバイクに向かっていく。
 
 
 
 
「はい、祐巳ちゃんヘルメット」
「あ、どうも・・・今日はツーリングですか蓉子さま?」
「んー、それもあるけど、本命はついてからのお楽しみ、かな?」
 
 
 
 
人差し指を立て、内緒のポーズをとる蓉子さま。
悪戯っぽい笑みを浮かべているあたり、またいつものように何かサプライズがあるのだろう。
 
 
 
 
「ほら祐巳ちゃん、乗ってちょうだい」
「はーい」
 
 
 
 
気にはなるけどつけば分かるのだろう。
蓉子さまに促されるままバイクに乗ると、ギュッとしがみつく。
これは役得、もとい恋人の特権である。
そんなわけで内心、むふふと笑いながらスタートしたツーリング。

けれど・・・・
 
 
 
 
 
 
「行くわよ祐巳ちゃん、しっかり掴まっててね!」
「ちょっ、何も峠を攻めなくても・・・・」
「せっかく来たんだもの、攻めないなんて勿体ないわ!」
「そ、そんなことい・・・・ぎゃー!?」
 
 
 
 
 
 
蓉子さまの素晴らしい運転に、最初とは別の意味でしがみつくことになった。
峠を攻めてる時は聖さまクラスの恐ろしさである。
いや、聖さまと違って安定感は抜群なのだが、いかんせんバイクには車という防護壁がない。
身体が野晒しの状態なのに、ハイスピードで景色は流れ、目の前に壁や崖が迫り来る。
 
 
 
 
「こ、こわっ、怖いですってば蓉子さ・・・ふぎゃー!!?」
「大丈夫、まだまだ行くわよ!」
「ちっとも大丈夫じゃないですってばー!!?」
 
 
 
 
ノリノリの蓉子さまに、悲鳴をあげ続ける私。
そしてその後も蓉子さまの挑戦は続くのであった・・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「うぷ・・・・」
「えと、大丈夫祐巳ちゃん?」
「ちっとも大丈夫じゃないです・・・・・」
 
 
 
 
喩えるなら、ハイスピードでグルグル周り続けるジェットコースターのようだった。
悲しいのは安全装置といえるものが、どこにもなかったことだろうか。
 
 
 
 
「本当にごめんね、祐巳ちゃん」
「うー、攻めるのは一人の時にしてくださ・・・・あれ?紅葉?」
「えぇ、今日はこれを見せたかったのよ」
 
 
 
 
ぶちぶちと文句をたれていた私の足下に、紅葉の葉が飛んで来た。
そして蓉子さまの声に顔をあげ、・・・・言葉を失った。
 
 
 
 
「・・・・」
「どう?凄いでしょう、この間ツーリングの時に見つけたの。とても綺麗だったから、祐巳ちゃんにも見せたいと思って」
「はい・・・凄く綺麗です・・・・・」
 
 
 
 
目の前広がる落葉樹の彩り、赤と黄、それに僅かに残る緑が絶妙なバランスの上に成り立っている。
自然の美しさを、まざまざと見せつけられているかのようだ。
 
 
 
 
「ふふ、よかった、気に入ってもらえたみたいね」
「はい、とても!ありがとうごさいます蓉子さま!」
「じゃあ少し散策しましょうか?奥の方はもっと凄いわよ」
「はい!」
 
 
 
 
蓉子さまにそう言われ、一緒に歩き出す。
ここより綺麗って、いったいどんなだろうと思いつつも足を進める。
そしてふと前を見ると、紅葉の中を歩く蓉子さまが目に止まる。
樹々の間を颯爽と歩く蓉子さまは、まるで一枚の絵のようで、思わずぼーっと見惚れてしまう。
 
 
 
 
「祐巳ちゃん?」
「ひゃうっ!?」
 
 
 
 
呼び掛けられて我にかえる。
気がつけば立ち止まっていたらしく、蓉子さまと距離が結構離れていて、慌てて蓉子さまの方に駆け出した。
 
 
 
 
「こっちよ祐巳ちゃん」
「待ってくださいよ蓉子さま〜」
 
 
 
 
その様子に、笑いながら蓉子さまは先へ進んで行く。
私も今度は置いてかれないように蓉子さまの隣に行くと、歩きながらその手をとった。
 
 
 
 
「ふふ、そんなに慌てなくても置いてかないわよ」
「えへへ、でもこうしてた方が安心ですから」
 
 
 
 
笑いあって手を繋いだままそこからもう少し歩くと、やがて開けた場所に出た。
 
 
 
 
「うわぁ・・・・」
「凄いでしょ?ここからだとあたりを一望出来るのよ」
 
 
 
 
蓉子さまの言うとおり、そこからは山々の紅葉と間にある谷の風景が広がっていた。
 
 
 
 
「バイクで来れる場所にこんな素敵なところがあるとは思わなかったから、大発見だったわ」
「ふわぁ・・・でもよく見つかりましたね、こんなところ」
「たまたまだったんだけどね。紅葉が綺麗だったから、どこかいいとこは無いかな、ってあたりを探してみたら見つかったの」
 
 
 
 
うーん、さらっとおっしゃるけど、探すのは大変だったんじゃなかろうか?
それとも美しい風景は、綺麗な人を呼ぶものなのだろうか。
 
 
 
 
「・・・・本音を言うとね、祐巳ちゃんに喜んでもらいたくて、結構一生懸命探しちゃったのよ」
「はぅ・・・・・」
 
 
 
 
耳元でそう囁く蓉子さま。
そんな嬉しいこと言ってくれちゃうなんて、反則です。
 
 
 
 
「この辺は桜も多いから、春になったらまた来ましょうか」
「・・・・はい、蓉子さま♪」
 
 
 
 
蓉子さまの言葉が嬉しくて、繋いだ手をギュッと握る。
新しく増えた小さな約束。
ちょっとずつ増えて、いつの間にか沢山の愛情をもらってる。
他愛の無い日々だけど、蓉子さまといられて私はとても幸せです。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ところで、帰りもひょっとして・・・・」
「あ、それは大丈夫よ」
「そうですか、よかった・・・・」
 
 
 
 
たっぷりと紅葉を満喫した後、
帰りもまたあの恐怖が続くのでは、と危惧していた私の不安を、蓉子さまはいとも簡単に払ってくれた。
さすが蓉子さま、やっぱり聖さまや江利子さまとは違うよね。
 
 
 
 
「じゃあ帰りましょうか、蓉子さま」
「ええ、下りはきっと楽しいはずだから」
「え・・・・」
 
 
 
 
ちょっとまて。
 
 
 
 
「あ、あの、蓉子さま・・・・?」
「下りは私もさっきより気をつけるし、もっとスピード出るからきっと祐巳ちゃんも楽しめるわ」
「・・・・」
「だから安心して帰り・・・・祐巳ちゃん?」
 
 
 
 
・・・・前言撤回、蓉子さまもやっぱりあの人達の親友だった。
 
 
 
 
「・・・・蓉子さまのバカ!」
「え、え、祐巳ちゃん?」
「もういいです、私一人で帰ります!」
「ちょっ、一人でってどうやって・・・・」
「歩きます!」
「そんな無茶な!?」
 
 
 
 
無茶でもなんでも、もうそんな気分。
 
 
・・・別に多くは望まないから、
とりあえず恋人の走り屋癖を治してほしいな〜なんて、散り行く葉を眺めながら願うのであった。
 
 
・・・・あ、散ったらだめじゃん。
 
 
 
 
「ごめんね祐巳ちゃん。でも、ほら、バイクってやっぱり楽しいし・・・・」
「はぁ・・・・」
 
 
 
 
紅葉と一緒に溜め息が深くなる、そんな一日なのでありました・・・・

 
 
 
 

...Fin

 
 


あとがき(言い訳)

久々のマリみてSSです、ごきげんよー♪
まったりラブを書こうとしたら、長くなった上にオチがついてしまいました(笑)
色々間に合わなくて、結局前後編にちぎっちゃったし(汗)
あとうちの蓉子さまがバイク好きなのは仕様です。
いや、だって赤いバイク似合いそうじゃないですか?赤い車でもいいですけど、某銀杏がすでに乗ってますし。
峠の赤い彗星とか言われてそうな、そんな蓉子さまが好きです(マテ)

しかし、書き始めたのは秋だったのに、もう冬ですよね〜(汗)
いや、でも、場所によってはまだ紅葉してるとこもあるから、セーフだよね!
とか言い張ってみる(笑)

とりあえず色々季節物が読みたい、とのキリ番リクを貰ってたのでこんな形にしてみました♪
クリスマスと正月物も書かなきゃね〜。
相変わらずな内容&執筆ペースですが、これからもまったりお付き合いくださいませ〜m(_ _)m

2007/12/24著


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