鳴り響く鐘・・・と、邪魔の音
 


 
 
 
 
 
 
カランカラ〜ン、カランカラ〜ン
 
 
 
 
「おめでとうございます!!」
 
 
 
 
鳴り響く鐘の音に祝福の言葉、
去年の結婚式を思い出したりもするけれど、
あいにくここは商店街の福引所。
あの華やかな教会とはかけはなれた場所である。
 
 
 
 
「ついに1等がでました!1泊2日の温泉旅行にご招待〜!!」
 
 
 
 
カランカラ〜ン、カランカラ〜ン
 
 
 
 
福沢、改め水野祐巳、20歳。
こんなことに運を使っていいのだろうか?
 
 
 
 
・・・・とはいえ、こんないいものをダストシュートする勇気もなし。
なんだかんだ言いつつも、嬉々としてお持ち帰りするのであった。
 






 


「人参・じゃがいも・玉葱、そしてカレーのルーもよぉーし」
 
 
 
 
ばっちりメニューが分かりそうな確認の仕方だが、
以前ルーを忘れて野菜スープになってしまった前科があるので、油断はできない。
まぁ今回は足りないどころか、カレーで温泉を釣ってしまったのだけれど。
 
 
 
 
「新婚旅行の海外もよかったけど、やっぱり日本人は温泉だよね、うん」
 
 
 
 
とりあえず同意してくれる人は誰もいないので、一人で頷いてみた。
・・・・まぁあれですよ、要するに蓉子さまと二人でお出かけしたいだけなんですよ、はい。
 
 
 
 
「だって、婦婦だし・・・・ね」
 
 
 
 
そっと呟いて、玄関表札を撫でる。
そこには『水野』という字の後に『蓉子』と『祐巳』の名前が続いていた。
 
去年の6月、私たちは結婚した。
本当は高校を卒業したら、と思っていたのだけれど蓉子さまは頑として譲らなかった。
私が成人するまでは、ということなのだろう。
気にすることないのに、と思う反面蓉子さまらしくて、そんなことさえ嬉しかった。
そして結婚した私たちは現在の家である新居へと引っ越した。
成人したとはいえ、二人ともまだ学生には変わりないので、
主に金銭面から当初はどこかにアパートを借りようと考えていた。
ところが、その話を聞いた蓉子さまのご親戚が、
現在使っていない家を格安で貸してくれることになったのだ。
ちょうど福沢家と水野家の中間に位置するため、双方から異論はでず、
すんなりとそこで暮らすことが決まったのであった。
 
 
 
 
ガチャ
 
 
 
 
「ただいま〜・・・・って誰もいないか。・・・・・あれ?」
 
 
 
 
蓉子さまは、今日はゼミで遅くなると言っていたのでいないはず・・・・
でもなぜか靴がある。
 
 
 
 
「蓉子さま・・・・?」
 
 
 
 
疑問に思いつつもリビングへの扉を開けると・・・・いた。
ソファーをベッド代わりに横になっている。
その顔には僅かに疲労がにじんでいて・・・・・
私はちょっとだけ泣きそうになった。
今蓉子さまは卒業論文と司法試験で忙しい。
そんな蓉子さまに、私はなにもしてあげられなくて・・・・・
なのに旅行だなんて、私は何を浮かれていたんだろう。
 
 
 
 
「ん・・・・祐巳ちゃん?」
「あ・・・・す、すみません蓉子さま、起こしてしまいましたね」
「構わないわ・・・・それよりも、どうしてそんな泣きそうな顔をしているのかしら?」
「・・・そんな顔してますか?」
「してるわ。何かあったの?」
 
 
 
 
蓉子さまと出会ってから4年。
それなりに成長したと思うのだが、相変わらず百面相は健在のようだ。
読まれすぎるというのも困りものである。
 
 
 
 
「えっと・・・お買い物は無事に済んだんですが・・・・」
「ですが?」
「帰りにですね、福引きをやりまして・・・・」
「それで?」
「1泊2日の温泉旅行が当たってしまったんです」
「ふーん・・・・って、すごいじゃない祐巳ちゃん」
「だけど、その、蓉子さまはお忙しいのに、私一人だけ浮かれちゃって・・・」
「それで自己嫌悪になってた?」
「はい・・・・だって私、こんなに蓉子さまが大変な時なのに、なにも出来なくて・・・・」
「・・・・祐巳ちゃんのそういうところはあの頃と変わらないわね」
「だって・・・・・」
 
 
 
 
いつもそう、好きだから何かしたいと思うのに、私は結局何もできずにいる。
 
 
 
 
「祐巳ちゃん・・・・選挙の時私が言ったことを覚えている」
「・・・・はい」
 
 
 
 
『姉は包み込んで守るもの、妹は支え』
 
 
 
 
忘れるはずがない。
あの言葉には何度も救われたし、
今なお紅薔薇の系譜に受け継がれている言葉である。
 
 
 
 
「私たちの関係は姉妹とは違うけど、婦婦だって役に立つかどうかという関係ではないはずよ」
「蓉子さま・・・・・」
「それとも、祐巳ちゃんは私が役立たずだったら嫌いになっちゃうのかしら」
「まさか!?そんなことありません!!」
 
 
 
 
蓉子さまの宿六姿なんて想像できないけれど、
役に立つ立たないじゃなくて蓉子さまだから私は・・・・・あっ。
 
 
 
 
「納得した?」
 
 
 
 
コクコク。

私は蓉子さまの言葉に首を縦に振る。
 
 
 
 
「ごめんなさい蓉子さま。分かってたはずなのに・・・・駄目ですね私ってば」
「いいのよ、不安になってる時はなおさらだろうし。それにね、私だっていまの祐巳ちゃんみたいに不安になったりするのよ?」
「蓉子さまが・・・・・ですか?」
「そうよ?私の奥さんは素敵すぎるから、虫よけをしないと心配で心配で」
 
 
 
 
なんて少しおどけながらおっしゃるけど、虫よけを振りまきたいのは私の方だと思う。
 
 
 
 
「その心配はないわ、叩き落とせば済むことだから。むしろ叩き落としても寄ってくるのが問題なのよ・・・聖とか聖とか聖とか・・・・」
 
 
 
 
いや、しつこさ・・・・もとい根性ならお姉さまと江利子さまも負けてはいないと思う。
それから私が喋る前に返答するの、やめましょうよ蓉子さま。
 
 
 
 
「だって聞かなくても分かるんですもの」
「うー・・・・」
「もちろん読顔術だけじゃなくて愛の力だけど♪」
 
 
 
 
そう言って蓉子さまは、ぎゅー、ってしてくれるんだけど・・・・・
 
 
 
 
「最近言動が聖さまに似てきましたよ蓉子さま」
 
 
 
 
この、ぎゅー、とか誰かさんを思い出すし。
言われた蓉子さまは強烈な渋面をくれたけど。
 
 
 
 
「あんな節操なしと一緒にされてもね・・・・・」
 
 
 
 
だって似てきたんだもん。
 
 
 
 
「まぁそれはおいとくとして・・・・」
「おいとくんですか?」
「おいとくの、私のは祐巳ちゃん限定だから。それよりも温泉よ」
「あ、そういえば元々温泉の話でしたっけ」
「脱線してるうちに忘れてたわね?」
「あぅ・・・・・」
 
 
 
 
その通りです、すっかり忘れてました。
 
 
 
 
「でも、蓉子さまはお忙しいわけですし・・・・・」
「いえ、行きましょう」
「い、行くんですか!?」
「もちろんよ、いいじゃない温泉。それに忙しいから息抜きも必要なのよ」
「そ、それはそうですけど・・・・」
「それとも祐巳ちゃん・・・・本当は行きたくない?」
「えぇっ!?い、行きたいですよそりゃあ」
「じゃあ決まりね。次の休みにでも行きましょう」
「はい、蓉子さま♪」
 
 
 
 
こうして私達は、次の休みに温泉に行くことになったのだけれど・・・・
 
 
 
 
「・・・・聞いた?」
「聞きましたわ・・・・」
「ふふふ、蓉子ったら祐巳ちゃんと二人で温泉だなんて、そんなおいしいこと独り占めさせるわけにはいかないな〜」
「うふふ、祐巳ったらあんなにはしゃいで・・・・そんなに私と温泉に入りたいのね」
 
 
 
 
などと、人ん家の庭でそんな妄想を繰り広げてる人達がいるとは、
思いもしなかったのでした・・・・・・
 
 
 
 
 
 
 


あとがき(言い訳)

ごきげんよう皆様!
ちょっと間が開いてしまいましたが、待望(?)の更新です♪
え、温泉話につなげるんなら邪魔用意しちゃダメじゃないか、って?
・・・・そうなんだよね〜・・・・( ̄  ̄;)遠い目(をぃ)
なんていうか、勝手にでてくるというか、○ッキーみたいに逞しい方々というか・・・・
さてさて、どうなることやら(マテ)

ちなみに蓉子さま、作中で仰ってませんでしたが、早い帰宅の理由は?

蓉「それはもちろん祐巳ちゃんと過ごすため」

ほほう♪

蓉「・・・っていうのもあるけど、教授が風邪引いて休講になったのよ、スカくらったわ」
祐「でもそのおかげで今日は二人でゆっくり過ごせますから♪」
蓉「祐巳ちゃん・・・」
祐「蓉子さま・・・」


・・・・なんかあとがきルームがピンク色になってきましたが・・・・
と、とりあえず次回作に続きます!ご期待ください!!
それではまた〜、ごきげんよー!!(脱兎)



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